【鉄路と生きる(19)】第2部 常磐線 未来へ変わる風景 大熊、双葉の復興拠点 再開発始動

 

大野駅から街並みを見つめる伏見さん夫妻。再開発に伴い、建物の解体が進む

 

2023/01/10 09:30

 

 

 冬の冷たい空気を震わすように、重機の音が響き渡る。福島県大熊町下野上地区にあるJR常磐線大野駅。かつて町の中心部だった地域はさら地が広がり、現在は町営住宅や町産業交流施設などの建設が進む。

 浪江町とは異なり、駅は東京電力福島第1原発事故に伴い町内に設定された帰還困難区域にある。駅を含む一帯は特定復興再生拠点区域(復興拠点)となり、避難指示が昨年6月に解除された。新たなまちづくりは、まだ緒に就いたばかりだ。

 町で30年ほど暮らす伏見明義さん(72)は約2年半前から毎朝、妻の照さん(70)とともに駅の清掃員として働く。駅舎から見える景色は刻々と変化している。町の復興事業が進むのに伴い、家屋や事務所など建物の解体が進む。今後は住宅団地や商業施設などの整備が加速する。「ここ1年で、原発事故前からの建物がどんどんなくなった。復興が本格化する証しなんだろう」。駅2階の窓から眼下を見渡し、少し複雑そうな表情で言葉をつなぐ。

 原発事故前、駅前には昔ながらの飲食店や商店が並び、通勤や通学などで利用する人も多かった。「原風景が消えるのは寂しいけど、復興のためには仕方がない」。伏見さんは自らに言い聞かせるように前を向く。

 大野駅は2020(令和2)年3月に再開した。駅周辺にはまだ人がおらず、生活の利用などは見込めなかった。復興事業を担う町企画調整課の担当者は「人やものを運ぶ鉄道が通ることで、少しでも復興を前進させたいという沿線自治体の思いに、国、JRが応えてくれたんだと思う」と語る。

 原発事故前まで1日平均600人前後が利用していた。現在は無人駅となり、JR東日本は統計を記録していないが、人影はまばらなのが現状だ。伏見さんは、駅を中心にまちづくりが進めば新たな雇用や居住者が増え、利用が活発になると期待する。「景色は変わっても、もう一度、駅からにぎわいが生まれればうれしい」。地域発展を願い、その時が来るまで玄関口を磨き上げるつもりだ。

 双葉駅周辺でも昨年8月に復興拠点の避難指示が解除された。町は駅西側に「住む拠点」を整備し、10月から町営住宅「駅西住宅」への入居が始まった。駅東側には小規模な商業施設が立ち並ぶ予定だ。

 かつて花見でにぎわった富岡町の夜ノ森駅周辺は今春、復興拠点の避難指示が解除される。地域再生へ、ようやく動き出す。

 

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