森を守る好循環 福島県いわき市の森林組合、企業など8者連携 CO2排出枠「地産地消」 資源の保全や防災に活用

2025/05/14 10:51
福島県のいわき市森林組合と地元ガス会社、いわき市、いわき商工会議所、農林中央金庫など8者は森林保全や温室効果ガス排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」の実現に向けて連携する。森林の二酸化炭素(CO2)吸収量を、クレジット(排出枠)として売買できる国の認証制度「J―クレジット」を活用。組合は収益を森林管理に充て所有者にも還元する。市などによると、自治体や経済団体も交えてクレジットを循環させる「地産地消」は全国でも珍しい。豪雨災害などの教訓と、広大な森を持つ地域性を資源の循環活用と防災力向上に生かす。
連携のイメージは【図】の通り。「カーボンニュートラル・ふくしまいわき森守[もりもり]プロジェクト」と銘打ち13日、市が発表した。市森林組合が間伐や植林などの森林管理を通じてクレジットを創出する。市内でガス事業を展開する東部瓦斯、常磐共同ガスが購入し、事業で発生したCO2を相殺できる。
全国森林組合連合会と農林中央金庫は売買の双方を仲立ちし、知見に基づく助言や事業者のマッチングを担う。市、いわき商工会議所、県森林組合連合会が側面から支援する。8者は15日、連携協定を結ぶ。
当面は市内三和地区の民有林約518ヘクタールをモデルケースとして事業を進め、今年度内に国の認証取得を目指す。売買で得た収益は市森林組合による森林保全活動の経費に充てるほか、森林の所有者の収入とする。
管理の手が行き届かないことによる森林の荒廃を防ぎ、豪雨や地震による土砂崩れなどを抑止する。各関係機関は取り組みの周知や脱炭素の啓発にも力を入れ、クレジット購入に関心のある企業、森林の利活用に悩む森林所有者に参画を呼びかける方針。
いわき市は県内59市町村で最大の面積を持ち、森林面積は約8万9千ヘクタールと市全体の約72%に上る。一方、近年は2019(令和元)年10月の台風19号(東日本台風)、県内で初めて線状降水帯が観測された2023年9月の台風13号に伴う豪雨などの災害を経験した。災害の激甚化につながる気候変動に対する危機感や、森林資源を生かしてカーボンニュートラルの達成を目指す機運が高まっている。
いわき商工会議所が3年前にJ―クレジットの推進などを市への提言に盛り込むなど、脱炭素社会を実現する柱の一つに据えてきた。
市森林組合の田子英司組合長(69)=県森林組合連合会長=は「J―クレジットの仕組みを生かし、森林所有者にも利点を伝えながら森林保全を進めていく。地域内でクレジットが循環する仕組みを築き、地域活性化と温暖化対策を両立させたい」と意気込んでいる。
※J―クレジット 適切な森林管理による森林のCO2吸収や省エネ設備の導入、再生可能エネルギー利用に伴うCO2排出削減量を「クレジット」として国が認証する制度。吸収量や排出量削減分を環境価値として売買する。企業などが事業活動による排出削減量を達成できない場合も、クレジットを購入すれば排出量を削減したとみなせる。経済産業省、環境省、農林水産省が共同で運営し、2013(平成25)年度から制度が始まった。