情報発信の工夫必要 安全と安心同義ではない【復興を問う 帰還困難の地】(56)

 

 東京電力福島第一原発事故に伴う除染廃棄物を運び込む車両が連日、列をなして中間貯蔵施設(大熊・双葉町)に入ってくる。施設内は、原発事故前に人々の営みがあった土地に除染で発生した土壌の貯蔵施設などが整備された。周囲に張り巡らされた運搬用のベルトコンベヤーの稼働音が響く。敷地の方々で除染廃棄物が詰め込まれた黒い袋が山積みになっている。 

 膨大な量の除染廃棄物の多くは、地面から剥ぎ取った土壌だ。法で定められた県外最終処分の前段階として、環境省は土壌を減容化するため、再生利用に向けた実証試験を推進している。結果を踏まえ、道路の盛り土など公共工事で使う方針だ。 

 中間貯蔵施設整備のため自宅の土地を提供した大熊町行政区長会長の土屋繁男さん(72)は「原発事故で汚された土のイメージを拭うのは簡単ではない。国民全体に理解してもらう取り組みがなければ、再生利用の動きは進まない」と指摘する。 

   ◇  ◇ 

 環境省は帰還困難区域を除く地域の除染廃棄物の中間貯蔵施設への輸送量を約千四百万立方メートルとしている。土屋さんは、県外で最終処分するには、中間貯蔵施設から運び出す総量を減らす必要があるとし、国の取り組みを肯定的に受け止めている。しかし、二〇一五(平成二十七)年三月の中間貯蔵施設への搬入開始から六年が過ぎようとする現在も、再生利用は実証試験の段階で、実用化には至っていない。 

 土屋さんは原発事故前、東電福島第一、第二両原発の警備を担う会社に勤めていた。放射線取扱主任者の資格を持つ。「除染土壌の中から汚染されていない土を選別し、路盤材や、口に入らない花卉(かき)などの生産に使うことが減容化につながる」と語る。 

 だが、「安全」と「安心」は同義ではない。原発事故に由来する土壌を多くの人が「安心」して受け入れるには、「実証試験を重ね、科学的根拠を積み重ねて情報発信する以外にない」と考えている。 

   ◇  ◇ 

 国は除染や中間貯蔵施設に関する取り組みの周知に向け、情報発信のための施設整備やパンフレットの作製などに取り組んできた。土屋さんもいくつかの冊子に目を通した。分かりやすくまとまっているが、関心を持っていない人たちにも情報を届け、理解を促すための工夫が必要だと感じる。 

 「除染廃棄物を減らせず、県外に搬出できなければ、中間貯蔵施設が最終処分地になりかねない。古里の未来がついえてしまう」。福島の環境回復を願って、大切な土地を手放した土屋さんは、県外最終処分の完了後に中間貯蔵施設がなくなり、再び活気を取り戻した古里の姿に思いをはせる。「国は何としても国民の理解を醸成し、再生利用を実現すべきだ」

関連記事

ページ上部へ戻る