保健師不足に限界も 復興に命と健康不可欠【復興を問う 帰還困難の地】(64)

 

 大熊町の主任保健師の大沢貴志さん(43)は、東京電力福島第一原発事故により避難生活を強いられている町民の健康管理を担っている。

 長きにわたり古里に帰れず、ふさぎ込んでいる高齢者らと面会する。「元気に過ごしてほしい」と願って接しているが、時に限界を感じる。「広域避難と長期にわたる町外での生活により、今も前を向けない町民がいる。数人の保健師では見守り切れない」

 埼玉県越生(おごせ)町の出身で、越生町役場に保健師として勤務していた。原発事故直後の二〇一一(平成二十三)年五月、大熊町に派遣された。会津地方のホテルや避難所を回り、町民の心身の健康をサポートしてきた。当初は一カ月で帰る予定だったが、希望してさらに一カ月延ばした。「越生も人手が足りない」と促されて戻った後も、大熊の人々が頭から離れなかった。

 休日を利用して町民と交流を続けた。保健師不足にあえぐ大熊町の状況を見かねて二〇一五年四月、町の保健師となった。「目の前で倒れている人を助けるような感覚。放っておけなかった」と振り返る。

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 町内は一部で避難指示が解除されたが、帰還困難区域が残る。避難指示解除の見通しすら示されていない白地地区がある。それでも古里に帰りたいと願う人がいる一方で、帰還を諦めた人も少なからずいる。古里の状況や生活事情はさまざまで、抱えている悩みや苦しみは人それぞれに異なる。

 原発事故で古里を奪われた町民の心に寄り添い、本音を聞く。信頼関係を築き、興味や関心のある事柄を探り、外に出たり体を動かしたりする機会をつくる。それを繰り返すことで、生きる力の回復につなげる。

 「帰還を諦めた人の心理状態を理解し、支えていきたいのだが…」。大沢さんは町民の全てを支えることは困難だと考えている。

 「国は全ての町民の健康を管理できる体制を構築してほしい。被災地の復興に向けては、人々の命と健康が不可欠だ」。真っすぐなまなざしで求めた。

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 三月一日現在、町の住民登録者数一万二百三十八人のうち、二千三百八十四人が県外に避難している。一方、町の正職員の保健師は大川原地区の役場に二人、会津若松市の会津若松出張所に一人、いわき市のいわき出張所に四人、郡山市の中通り連絡事務所に一人の計八人。「全員には手が回らない。支援が必要な人を訪問するだけでも手一杯」と吐露する。

 原発事故直後は国や東電への怒りをあらわにしていた人が慣れない避難生活に疲れ果て、次第に感情を失い、無気力になるケースもある。十年間で町内の震災(原発事故)関連死は百二十人を超え、津波などによる直接死十二人の十倍に達した。「望郷の念を抱き、死に至る町民の無念さは計り知れない」

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