【官製風評 処理水海洋放出】幅広い意見反映を 地元要望に回答示せ

 

 東京電力福島第一原発の処理水海洋放出方針の風評対策を巡り、政府が漁業や農業など関係団体の意見を聞くワーキンググループ(作業部会)の初会合が開かれた三十一日、福島県内の生産者らからは作業部会で出された各団体の要望に対し、政府側が十分な回答を示すよう求める声が上がった。政府は今後、宮城、茨城両県でも作業部会を開く方針を示したが、県内での追加開催は未定となっている。生産者らは、より幅広く、きめ細かに意見を吸い上げるよう訴える。

 「政府は(関係団体が求めた)地元の要望をしっかりと受け止め、風評が起きないよう施策案に反映すべきだ」。喜多方市の熱塩温泉山形屋の瓜生泰弘社長(65)は声を上げる。新型コロナウイルス感染拡大で県内の観光や宿泊業界への影響は長期化。処理水に伴う風評が追い打ちにならないか不安は尽きない。

 三十一日の作業部会では、県旅行業協会の代表が処理水の海洋放出に伴う打撃は水産業や農林業にとどまらないと指摘。徹底した風評対策や観光誘客への支援策を、中間取りまとめ前に早期に示すよう求めた。背景には政府が地元との対話を深めないまま強行的に海洋放出方針を決定したことへの不信感がある。

 方針の説明そのものも県内の自治体や議会にとどまる。瓜生社長は「国民が不要な不安を抱かないよう正確な情報を適切に発信してほしい」と求めた。

 相馬市の松川浦漁港に三十一日、漁を終えた船が次々と入港し、新鮮な魚介類を水揚げした。漁業者たちは十年間風評と向き合い、試験操業から一歩脱却した移行操業に光を見いだしたばかりだ。相馬双葉漁協の立谷寛治組合長(69)は「今の漁業や風評の実態がどうなっているのか、しっかりと認識するためにも幅広く声を聞いてほしい」と訴える。

 海洋放出方針の正式決定から約二週間後の四月二十八日、相馬市で国の担当者を迎えた漁業者向けの説明会が開かれた。同漁協の所属する相双地区の漁業者は約八百人に上るが、出席できたのは新型コロナ感染対策などを踏まえ約二百人にとどまった。説明会の追加開催は決まっていない。

 漁師が取った魚を食べる消費者の考えにも広く耳を傾けるべきだと考える。「そうでなければ、実のある風評対策につなげられるとは思えない」と話した。

 桑折町伊達崎(だんざき)でモモを栽培する農家南友祐さん(74)もきめ細かな意見を吸い上げるよう求める。

 高品質で、皇室にもモモを献上してきた。四月の降霜では栽培するモモ全体の九割ほどが被害を受けた。原発事故による風評が残る中、二年後に海洋放出となれば、風評が上乗せされると危機感を抱く。南さんは農業の担い手の将来を憂う。「(海洋放出と風評について)これからの『フルーツ王国福島』を支える若手農家がどう感じ、何を望んでいるかを知ってほしい」

関連記事

ページ上部へ戻る