【戻せ恵みの森に ―原発事故の断面―】第3部 除染(15) 子ども活動戻らず 事業後も「入れない」

 

2022/02/22 10:18

 

 東京電力福島第一原発事故は古里の森林に深刻な影響を及ぼした。事故から間もなく十一年になる今も、森林の除染はほとんど手が付けられていない。一部では森林環境の回復のため里山再生事業が実施されている。除染の取り組みの現状を追う。

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 川俣町山木屋地区にある「第二親子の森」の散策道は雪で白く染まる。日当たりの良い斜面にはケヤキが並ぶ。樹木に巻かれた黄色やピンクのビニールは、地元の小学生が植樹した年を示している。山木屋地区の避難指示解除から三月末で五年になるが、今も山には子どもの声は戻らない。

 二〇一六(平成二十八)年、森林環境を回復させるための里山再生モデル事業が県内で始まった。住民が利用してきた里山で、除染や森林整備、放射線量測定が一体的に進められた。事業は復興庁、農林水産省、環境省がまとめた「福島の森林・林業の再生に向けた総合的な取り組み」に基づく。森林公園や遊歩道など十四市町村の計約八百ヘクタールがモデル地域に選ばれ、落ち葉など堆積物の除去や間伐が行われた。

 川俣町山木屋地区の「第二親子の森」は、手入れされていなかったため、植樹したケヤキより雑木が太く育つなど荒廃した状態だった。山木屋地区は二〇一七年三月末に避難指示の解除を控えていた。かつてこの場所で、山木屋小緑の少年団が活動していた。子どもたちの森林学習の場を復活させよう-。町と地元住民が協議し、第二親子の森を対象にすると決め、二〇一六年十二月にモデル事業がスタートした。

 対象は約二ヘクタール。二〇一六、二〇一七両年度はスギやケヤキの人工林を間伐・除伐し、雪で倒れた木を取り除いた。表土流出の抑制策として、斜面に丸太を敷き詰めた。二〇一八年度に除染作業を行った。体験広場や散策道で、地面に落ちた葉や枝など約五千五百九十五平方メートルの範囲の堆積有機物を除去した。ケヤキは表面を剥ぎ取ると枯れる恐れがあり、草や雑木の刈り取りを中心に作業した。

 除染前の二〇一八年九月と除染後の同年十一月の空間放射線量率の変化は【表】の通り。体験広場では、平均値で22%低減し、放射線量は毎時〇・六九マイクロシーベルトとなった。この結果を受け、国は「除染が森林学習活動を再開するための環境づくりに寄与した」と総括した。

 ただ、国が除染の長期目標とする年間追加被ばく線量一ミリシーベルトを空間放射線量に換算した毎時〇・二三マイクロシーベルトには程遠かった。百メートル四方のメッシュ調査や、測定機器を背負って歩く方法による調査で毎時一マイクロシーベルトを超える地点もあった。

 山木屋小緑の少年団育成会長の広野敏男さん(71)は「まだ子どもが入れる状態ではない」と語る。

 住民は、かつて子どもたちが緑に親しんだ森を元の姿に戻すよう求めている。

 

※里山再生事業 森林環境の回復に向けて2016(平成28)年度にモデル事業が始まり、相馬、二本松、田村、南相馬、伊達、川俣、広野、楢葉、富岡、川内、大熊、浪江、葛尾、飯舘の14市町村が対象となった。放射線量低減などの効果が確認されたとして、国は2020(令和2)年度から里山再生事業に移行し、中通りや会津地域の一部を含めた48市町村に対象を拡大した。国が直轄で除染する除染特別地域の11市町村、市町村が主体となって除染する汚染状況重点調査地域の31市町村(除染特別地域と4市町村が重複)、同地域の指定が解除された県北地方の1村、会津地方の6町村、県南地方の3町村が含まれる。対象は福島、郡山、いわき、白河、須賀川、相馬、二本松、田村、南相馬、伊達、本宮、桑折、国見、川俣、大玉、鏡石、天栄、会津坂下、湯川、柳津、三島、昭和、会津美里、西郷、泉崎、中島、矢吹、棚倉、矢祭、塙、鮫川、石川、玉川、平田、浅川、古殿、三春、小野、広野、楢葉、富岡、川内、大熊、双葉、浪江、葛尾、新地、飯舘の各市町村となっている。

 

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