【双葉の選択 8月30日】(1)「古里の力に」心待ち 県外避難多く 悩む人も 福島県双葉町、30日に避難指示解除

 

避難生活で得た経験を生かし、よりよいまちづくりを目指すと誓う国分さん=いわき市・災害公営住宅勿来酒井団地

 

2022/08/25 09:31

 

 東京電力福島第一原発事故に伴い唯一全町避難が続いていた福島県双葉町は30日、帰還困難区域のうち特定復興再生拠点区域(復興拠点)の避難指示が解除される。原発事故から11年5カ月。唯一県外に町役場機能を移した影響もあり、県外避難者の割合が高い。県内外で長期避難を続けてきた町民はどんな選択をするのか。町に思いを寄せる人はどう復興に関わっていくのか。現状に迫る。

 いわき市勿来町の災害公営住宅勿来酒井団地。現在約230人が暮らしているが、そのうちの約130人が双葉町民だ。団地の自治会長を務める国分信一さん(72)は、町内への帰還を決めた一人だ。「新たなまちづくりの力になりたい」と意気込む。

 国分さんは2018(平成30)年に同団地に入居し、翌年自治会長に就いた。防災面での不安解消のため地元消防団と防災協定を結ぶなど、入居者が安心安全な生活を送れるよう努めてきた。自主防災組織として勿来酒井団地自主防災会を設立し、地域住民らと合同で避難訓練を行うなど交流を深めてきた。

 国分さんは、こうした避難先での経験を新たなまちづくりに生かしたいと考えている。ただ避難生活の長期化により、町への帰還を希望する町民は必ずしも多くはないと感じている。勿来酒井団地の町民のうち、現段階で帰還を決めたのは10人にも満たないのが現状だ。

 「本当に町は安全なのか」「生活環境が整わない町に戻っても仕方がない」。町民の気持ちは分かる。ただ、「被災したからこそ、自分たちの手で災害に強い安全な町にしなければならない」と自らを奮い立たせる。

 町は原発事故に伴う被災市町村のうち唯一県外に町役場機能を移した。今年復興拠点の避難指示を解除した大熊町や葛尾村は大半が県内避難だったのに対し、双葉町は現在も3割を超える町民が県外で避難生活を送る。

 県外で最も多くの町民が暮らす埼玉県で町埼玉自治会の役員を務める町議作本信一さん(68)は「帰町を考える人は必ずしも多くないのが現状だ」とうつむく。「避難先の町民に目を向け続けてもらいたい。きっと帰還する町民の増加につながるはずだ」と信じる。

 今回避難指示が解除される町内長塚一区で長年区長を務めてきた木幡智清さん(81)はいわき市内に住宅を購入した。「町内の家々に明かりがともり、町ににぎわいが戻れば帰還したい」と復興の加速化を期待している。

 「双葉町に帰りたいが…」。待ち焦がれてきた避難指示解除だが、古里は遠く素直に喜べない町民もいる。悩みは尽きない。

 

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