【福島県知事選 7つの生活圏は今】(4)福島県いわき地域 漁業者悩ます処理水 医療都市部に偏在
「常磐もの」の代表格ヒラメの競りに参加する仲買人=いわき市の沼之内漁港
2022/10/18 09:55
カラン、カラン。福島県いわき市の沼之内漁港の朝は、競りのかねの音と威勢の良いかけ声が響いていた。集まった魚介類は東日本大震災前と比べて少ないという。仲買人が水揚げされたばかりのヒラメやカレイなどの「常磐もの」を取り囲み、次々に落札した。
本県の沿岸漁業は東京電力福島第1原発事故に伴う試験操業を昨年春に終え、本格操業を目指している。原発事故により失った販路が回復していない影響もあり、昨年の漁獲量は震災前の2割にとどまった。市漁協は漁獲量を伸ばし、常磐ものを再び全国に出回らせようと販路の復活に注力する。
県もこれまでに流通大手イオンの首都圏などにある14店舗で、常磐ものを日常的に扱う販売棚の設置を実現。他の大手量販店にも働きかけを強めている。
しかし、政府が決定した福島第1原発の処理水の海洋放出方針が影を落とす。設備工事などが粛々と進行し、放出開始のめどは来春に迫る。各種世論調査などから、国内では今なお処理水への理解が進んでいるとは言えず、反対の声も根強い。「また風評が起き、魚が売れなくなるのではないか」。関係者に懸念が渦巻く。
県は量販店の販売担当者に処理水の正確な情報を理解してもらう研修を実施し、一層の風評抑止に努める方針だ。
カサゴなどを沼之内漁港に水揚げしている漁師の大平高洋さん(48)は、漁業者の意見が国や東電の処理水に関する議論に反映されにくいと感じている。「県にはこれまで以上に、漁業者に寄り添った施策で支援してもらいたい。販路が風評で再び絶たれることだけは避けたい」と切実に願う。
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いわき市の中心部に向け、1台の乗用車が国道49号を走る。市内北西端の山あいに位置する同市三和町上三坂地区在住の田子元彦さん(82)がハンドルを握る。小名浜地区の診療所まで、車で1時間程度かけて通院する。「この年になると運転が不安だが、地元に医療機関がないから仕方ない」。近所の診療所が閉鎖して既に十数年が経過した。
市内では医師の偏在が課題となっている。市の面積は広大だが、市医療センターや福島労災病院といった大規模な医療機関は市内平や内郷地区などに集中。小規模な診療所も都市部に偏っているため、中山間地域の住民は医療にアクセスしにくいのが実情だ。
医師不足も慢性化している。市の人口は約32万6千人と県内市町村で最大規模であるものの、厚生労働省の調査では2020(令和2)年12月末現在、いわき医療圏(いわき市)の医師数は575人で、県が2023年までの達成目標とする631人とは開きがある。
医療環境の充実には医師の確保と偏在への対応が不可欠になる。県は県内の公的病院への勤務を条件に修学資金を貸与する福島医大医学部「地域枠」卒業生の派遣調整や指導医の招聘(しょうへい)による研修環境の充実に取り組む。だが、高齢化に伴い地域医療のニーズは高まる一方だ。田子さんは「中山間地域の住民も安心して医療を受けられるよう施策を進めてほしい」と新しいリーダーに求めている。