【鉄路と生きる(21)】第2部 常磐線 双葉郡への誘客課題 被災地ツアーに可能性
2023/01/12 09:57
全線再開通から間もなく3年となるJR常磐線。鉄路はよみがえったものの、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故からの復興の途上にある沿線の福島県双葉郡は住民が少なく、県内区間の乗客数は震災前と比べて大きく減少している。複合災害の現状を学ぶ「ホープツーリズム」を含め、新たな地域振興と鉄道を結び付け、いかに利用者を増やすかが課題となっている。
JR東日本は昨年、利用者の少ない地方路線の収支を公表した。コロナ禍前だった2019年度の1キロ当たりの1日平均乗客数が2千人未満の路線・区間を対象とし、県内では4路線9区間が該当。県内の常磐線のうち、避難区域を通るいわき-原ノ町(南相馬市)駅間は全線再開通前のため収支公表の対象外だったが、全線再開通後の2020、2021両年度の乗客数を見ると、2千人を下回った。
同駅間の平均乗客数の推移は【グラフ】の通り。2020(令和2)年度以降の乗客数は、収支公表対象となった路線・区間よりも少ないケースがあるのが実情だ。
震災前からの減少幅も大きい。直近の2021年度は2007(平成19)年度と比べ約7割も減った。隣接する高萩(茨城県高萩市)-いわき駅間は約4割減、原ノ町-岩沼(宮城県岩沼市)駅間は約5割減だった。
沿線では利用者増の鍵を握る福島国際研究教育機構(F-REI・エフレイ)の本施設の設置など明るい兆しがある一方、復興の進捗(しんちょく)は市町間で大きく異なる。復興の名の下、常磐線に平行する常磐自動車道が震災後に全線開通し、新しいインターチェンジも増えた。車移動の利便性も高まり、鉄道の利活用を促すのは容易ではない。
交通経済学が専門の宇都宮浄人関西大経済学部教授(62)は「駅は住民や他地域からの来訪者の窓口となる。復興の観点から車だけに頼らないまちづくりを進め、活性化につなげてほしい」と話す。
被災地を巡るホープツーリズムとの連携も乗客を増やす可能性を秘める。ホープツーリズムによる県内旅行者は近年増加傾向にあり、2021年度は過去最高の約9800人だった。
被災地を通る常磐線は震災後、運行本数が少ない状況が続く。常磐線活性化対策協議会長の門馬和夫南相馬市長(68)は「首都圏と浜通りの間を気軽に日帰りできるようなダイヤに改正してほしい」と利便性の向上を求める。
浜通りでは、いわき市と双葉郡を拠点とするサッカー・いわきFCのJ2昇格による経済効果も見込める。内田広之いわき市長(50)は自家用車を持たない人が多い首都圏から浜通り全域に誘客できれば、常磐線利用者も増えると推測。「福島県の復興を知ってもらうきっかけにもなるよう、浜通りの市町村と取り組みを探りたい」と構想を練っている。
3月で発生から12年となる震災の大津波は東北地方の太平洋沿岸に広く、被害をもたらした。岩手県では鉄道を生かして教訓を語り継ごうとする取り組みに注目が集まっている。