行政が頭抱える「勝手橋」 許可なし架設、管理者不明 台風13号で氾濫、福島県いわき市の宮川

 

いわき市内郷地区の宮川に架かる欄干のない「勝手橋」。住民によると50年近く前からあるという

 

2023/11/08 09:38

 

 台風13号に伴う大雨から8日で2カ月。県管理河川「宮川」が氾濫したいわき市内郷地区の浸水域で、所管する県の許可なく架けられ、管理者の不明な橋が新たな課題となっている。被災後の県の調査ではこうした「勝手橋」は11カ所に上り、引っかかった流木などが流れをせき止め、浸水の一因となった可能性も指摘されている。生活路として暮らしに根付く一方、維持管理が行き届かず老朽化する危険も懸念される。勝手橋は全国に点在するが、県内の実態把握は進んでおらず、県や市町村は対応に頭を悩ませそうだ。

 

 宮川を管理する県いわき建設事務所が、台風被害を受けて橋の状況を調べた。調査の結果、浸水した流域の3キロ区間に架かる24本の橋のうち、11本がいつ誰が架けたのか分からない「勝手橋」だった。これらの一部には橋桁や欄干に流木などの堆積物が確認され、県が撤去したという。このうち1本のそばに住み、自宅が床下浸水した60代男性は「橋に流木やごみが引っかかって越水した」と証言した。

 勝手橋は設置時期や構造が不明で、橋の管理者に義務づけられる5年に1度の定期点検から漏れている。老朽化などを理由に破損や崩落が起きれば通行人が巻き込まれ、水害時には被害が深刻化する恐れもある。

 2級河川の宮川は、内郷地区では住宅街と対岸の県道の間を流れる。幅10メートル前後の川筋に次々と現れる橋の中には欄干のない橋もあるが、いずれも車や人が頻繁に行き来している。欄干のない勝手橋の近くに住む男性(67)によると、この橋は50年ほど前に近くにあった事業所が設け、事業所が閉まった後も残っているという。約20メートル上流にある別の勝手橋は中学生が通学で渡るなど「対岸への道として欠かせない」という。

 県いわき建設事務所はそれぞれの橋の管理者を把握する考えだが、無許可のため資料が乏しく、見通しは立っていないのが実情だ。担当者は「危険性があるので対応は急務だが、生活に密着しており、『即撤去』とはできない。住民や市と慎重に議論する」と話す。勝手橋を巡っては台風13号の被害を調べている東北大災害科学国際研究所などの検証チームも6日、市に課題として指摘した。内田広之市長は「災害時に危険性があり、撤去すべきかどうかが論点になると報告を受けた」と述べ、今後の対応を検討するとした。

 橋梁(きょうりょう)工学が専門の米田昌弘近畿大名誉教授(69)は勝手橋について「国や自治体の安全基準を満たさずに老朽化が放置されるリスクがある。災害や事故時の責任主体もあいまいだ」と問題点を指摘する。一方、人口や税収の減少が見込まれる中、自治体が管理する橋を増やすのは非現実的とし「行政と住民が相互理解を深め、危険な橋は撤去し、利便性が高い橋を残すなど取捨選択が必要だ」と提言している。

 

■国は自治体に把握求める

 国土交通省は管理者不明橋の把握に努めるよう自治体に通知しており、県は2022(令和4)年に調査し、県内で17カ所を把握した。調査対象は改修計画のある河川のみで宮川は外れていた。県河川計画課は実態として他にも同様の事例はあるとみているが、県管理河川は493に上り、人的・財政的負担から全容を把握できるかは不透明としている。

 

※管理者不明の橋=設置者が分からず、点検や補修の責任主体が定まっていない橋。地域住民や企業などが利便性を求めて設置する場合が多く、「勝手橋」とも呼ばれる。明確な定義はない。河川に架かる橋は河川法上の「工作物」に該当し、設置する際は管理者の国や自治体に許可を得なければならない。

 

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