解体される図書館の思い出やエピソードを漫画に描く 元保育士の渡部さん 福島県大熊町

 

作成した大熊町図書館の漫画を見つめる渡部さん

 

2022/08/17 09:45

 

渡部さんが描いた16コマ漫画。大熊町図書館の歩みや町民の思い出を紹介している

 

 年内にも解体される福島県の大熊町図書館の歴史を後世に残そうと、町出身の元保育士渡部千恵子さん(70)=郡山市に避難=は16コマ漫画を作成した。図書館開館から東京電力福島第一原発事故で閉鎖されるまでの歩み、長年親しんできた町民の図書館への思いやエピソードなどを描いた。自身のフェイスブックで発信している。「立派な図書館があったという事実を次世代に伝えたい」と誓う。

 漫画のタイトルは「13万冊の本を守った図書館」。「読書のまち」を掲げた町のシンボルの歴史をクレヨンで描いた。建物を擬人化し、原発事故による住民避難で「ひとりぼっちになった」「それでもまだまだ頑張れる」などと記した。「図書館を見て元気になった」など町民の思い出も紹介している。

 渡部さんは保育士を約40年務め、図書館が開館した1996(平成8)年から子どもたちと何度も通った。「絵本や紙芝居を読んで笑顔になる子どもたち、読書を楽しむ大勢の住民がいる光景が大好きだった」という。渡部さんも図書館のおかげで読書がさらに好きになった。

 今年3月に町を訪れた際、図書館が解体され、帰還者ら向けの住宅用地となる町の方針を知った。「何とか残したい」。知人らに声をかけ、再検討を求める署名活動を始めた。最終的に約7700通の意見が集まった。建物の維持費などの観点から町の方針は変わらなかったが、町民に愛されてきた図書館の存在を伝えようと、6月から漫画を描き始めた。

 図書館は早ければ10月にも解体工事が始まる予定だ。漫画は「10月まではまだ会えるよ」と締めくくっている。渡部さんは「館内には入れないが、外からなら建物を見ることができると伝えたかった。町民が大好きな図書館と最後の思い出をつくってほしい」と願っている。

 

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