営農再開鈍化心配 福島の避難区域12市町村 マイナスの地域も 自治体の枠超え連携を

 

2023/01/15 09:50

 

 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の発生から3月で12年となる中、避難区域が設定された福島県内12市町村の営農再開率は4割程度にとどまっている。特定復興再生拠点区域(復興拠点)の避難指示解除など明るい兆しがある一方、農家の高齢化や担い手不足などで再開率がマイナスに転じた地域もあり、回復の鈍化を懸念する声もある。専門家は市町村の枠を超えた広域連携の重要性などを訴える。

 12市町村の営農再開率の推移は【グラフ】の通り。2021(令和3)年度に初めて40%を超えた。国や県は第2期復興・創生期間の最終年度の2025年度までに6割とする目標を掲げる。市町村別では避難指示解除が早かった自治体を中心に60%を超えているが、前年度から減少に転じたケースもあり、ハードルは高い。

 「新規就農者の掘り起こしに努めているが、町だけでは限界がある」。広野町の担当者は嘆く。町の再開率は12市町村で最も高い77・7%だが、前年度は80%に達していた。ほ場の基盤整備などの要因もあるが、体調不良で営農を辞めた人もいるという。就農者のほとんどが60代以上で、農業振興には若い人材が不可欠だ。担当者は「国に手厚い支援をお願いしたい」と話す。

 川俣町は2017(平成29)年に避難指示が解除された山木屋地区での再開率が近く60%に達する見通し。だが、営農は利便性の高い土地から始まっており、山あいで再開が進むかは不透明だ。町の担当者は「営農再開のペースは鈍ってしまうかもしれない」と懸念する。体験農園の整備などを通じ、就農に魅力を感じてもらえるよう取り組んでいる。

 12市町村では福島再生加速化交付金、高付加価値産地展開支援事業などを活用し、農業関連の施設整備などが進んできた。

 被災地の農業復興の現状を研究してきた農林中金総合研究所の行友弥(ゆきとも・わたる)客員研究員は「高齢化や担い手不足が進む中、被災地では特に、市町村の枠にとらわれない広域連携の強化が大切だ。多様な品目の栽培によるリスク分散も欠かせない」と話す。農業体験や学びの場の提供で人のつながりをつくることも安定的な販売先の確保、生産者の意欲の向上に結び付くと指摘した。

 

■福島県内農業産出額、2000億円下回る 2021年、6年ぶり

 福島県内の2021年度の農業産出額は全国的な米価下落などの影響で1913億円となり、6年ぶりに2千億円を下回った。

 主食用米から転換が進んだ飼料用米は産出額の算定から外れるため、減額につながった可能性もある。根強い風評から県産農畜産物の価格が全国平均を下回っている状況も続いている。

 産出額の回復にはコメ生産のみに頼らない仕組みづくりが重要で、県やJAグループ福島は園芸作物の栽培強化に力を入れる。JAグループ福島の「ふくしま園芸ギガ団地」構想は、県内5JA管内に各1カ所以上の団地設置を目指している。原発事故による避難区域が設定された地域には2カ所以上を目標としている。

 

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