処理水海洋放出意見交換会 漁業者以外にも説明を 福島県いわき市漁協「風評払拭できない」

 

国や東電との処理水に関する意見交換会に臨む漁業者ら

 

2023/07/20 09:45

 

 東京電力福島第1原発の放射性物質トリチウムを含んだ処理水の海洋放出計画を巡り、福島県いわき市漁協は19日、国や東電との意見交換会を市内で開いた。出席した漁業者は、トリチウムの安全性や放出計画への理解が浸透しなければ風評は払拭できないと指摘。政府や東電は漁業者だけでなく他の業種や一般消費者への説明を尽くすべきだと訴えた。同日、宮城県で同県漁協幹部と会談した渡辺博道復興相は漁業者以外にも説明する機会を設ける考えを示した。

 

 市漁協や小名浜機船底曳網漁協の幹部ら市内の漁業関係者約30人が出席し、報道陣にも公開された。意見交換で、漁業者の一人は「まだトリチウムのことを分かっていない人が多い。(放出計画の)説明が広く浸透しないと風評払拭などできない」と述べ、政府や東電の説明不足を指摘した。

 別の漁業者は市場や仲買業者への説明の現状をただした。経済産業省の担当者が「周知を徹底しているが、取引停止などがあれば声を寄せてほしい」と回答すると、漁業者は「そうした情報を受けてから動くのでは遅い」とくぎを刺した。

 海洋放出に反発する中国や香港の動向を懸念する声も相次いだ。市漁協の江川章組合長は「中国などの圧力が強い。汚染水などと言われると風評被害が怖い」と話し、政府の適切な対応を求めた。

 意見交換会後、江川組合長は改めて海洋放出に反対の立場を示した上で、「(海洋放出は)安全という形で進んでいるが、不安に対しての説明が不足している」とし、政府や東電による国民や幅広い業種への丁寧な説明と理解醸成を求めた。小名浜機船底曳網漁協の柳内孝之理事も「風評払拭のためにはしっかりと科学的データを示し、周知すべきだ」と話した。

 共同通信社が14~16日に実施した全国電話世論調査では、処理水放出に関する政府の説明について「不十分だ」との回答が80・3%に達した。福島民報社が福島テレビと共同で6月に実施した県民世論調査でも、海洋放出や処理水の安全性に関する政府や東電の説明については「十分ではないと思う」が66・5%に上った。

 

■「他分野も大変重要」 復興相 説明機会設ける意向

 渡辺復興相は19日、宮城県漁協の寺沢春彦組合長らとの意見交換終了後に報道陣の取材に応じ、「(処理水の海洋放出に向けた)理解醸成は漁協の皆さんはさることながら、他の分野においても大変重要。消費者、卸売業や加工業などの関係団体の方々と話したい」と述べた。具体的な日程は調整中としたものの、機会を捉えて自身が訪問して説明する意向を示した。

 意見交換は冒頭を除き非公開で行われ、宮城県内の漁業関係者約30人が出席した。寺沢組合長は意見交換の冒頭あいさつで「政府が風評対策を講じなければ放出を容認する立場になれない」と海洋放出に改めて反対の立場を表明した。終了後、香港が日本産水産物の禁輸措置を強化するとの報道があった6月以降にアワビなどの値段が下落しているとして「風評被害が現実に起きている」と訴えた。

 宮城県漁協によると、アワビは6月上旬に1キロ当たり1万3千~1万4千円程度だったが、現在は9500円ほどに落ち込んだ。

 

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