コメと野菜出荷再開へ試験栽培 復興拠点の避難解除から半年 福島県飯舘村長泥行政区
長泥地区で試験栽培している野菜の生育状況を確認する鴫原代表
2023/11/01 09:38
東京電力福島第1原発事故に伴う帰還困難区域のうち、福島県飯舘村長泥行政区の特定復興再生拠点区域(復興拠点)の避難指示が解除され、1日で半年を迎える。県や村、住民はコメと野菜の出荷再開に向けた試験栽培を進めている。初年度の今年は現時点で調査を終えた全品目で放射性セシウム濃度は食品衛生法の基準(1キロ当たり100ベクレル)を下回った。一方、住民帰還が進まず、環境省による除染土壌の再生利用事業で造成した農地での営農再開時期は決まっていないなど課題も残る。
試験栽培は表土を剥ぎ取るなどし、除染が完了した農地で実施している。コメは水田13アールで、ひとめぼれを栽培した。野菜は3カ所の畑計約6アールでそれぞれキャベツ、ブロッコリー、ホウレンソウ、小カブ、小松菜を育てている。11月末まで検査を行った後、作物は全量廃棄する。県などは来年度も試験栽培を行い、2025(令和7)年度からの出荷再開につなげたい考えだ。
拠点内では62世帯197人(4月1日時点)が住民登録しているが、現存する住宅は10軒程度にとどまる。帰還促進や移住・定住者の呼び込みのため、村営住宅の建設などを求める声もあるが具体策は見えていない。
■長泥園芸生産組合の鴫原代表 畑で野菜育て「一歩踏み出せた」
飯舘村長泥行政区で試験栽培に取り組む長泥園芸生産組合の鴫原清三代表(69)は31日、避難先の福島市から自宅に戻り野菜の生育状況を確かめた。原発事故前に花卉(かき)用のハウスが並んでいた畑で、ホウレンソウなど5品目を育てている。「やっぱり長泥の自然が一番。やっと一歩を踏み出せた」と前を見据える。
今後、出荷制限が解除されれば地区全体で作付けができるようになる。営農を目的に、住民が古里を訪れる機会が増えると期待する。だが、消費者に長泥産農産物が受け入れられるには時間がかかると感じている。「国が前面に立ち、営農や流通支援に力を尽くす必要がある」と指摘した。