語り部 命続く限り 福島県新地町の小野トメヨさん100歳に 民話月1回披露、震災伝承も 長生き「活動のおかげ」
身ぶりを交えて民話「あんこ地蔵様」を披露する小野さん
2024/08/29 11:47
関係者や親戚らに100歳を祝われた小野さん(前列中央)。前列左から5人目は内堀知事、同3人目は大堀町長
現役の語り部として活動している福島県新地町の小野トメヨさんは100歳を迎えた。町内にある語りの拠点「小川観海堂」で月1回、地元の民話語りを続けている。東日本大震災の津波で自宅を流された経験から、災害の記憶と教訓の伝承にも力を入れてきた。長寿を祝う周囲の声を励みに「命がある限り、語りを続ける」と決意している。
小野さんは相馬市出身。結婚を機に20歳で新地町に移り住み、主婦として一家を支えた。幼いころから物語が好きで、新地に来てからは資料を読み込んでは民話を覚えていった。
語り部を本格的に始めたのは夫の余一さんを亡くしてから2年後の2001(平成13)年。須賀川市で開かれた、うつくしま未来博に出演した。観客の前で話す楽しさを知り、のめり込んだ。NPO法人語りと方言の会に入り、話術をさらに磨いた。
2011年3月11日、津波でJR新地駅近くにあった自宅が流された。家族は無事だったものの、知り合いを含む多くの町民の命が失われた。町役場への一時避難や慣れない仮設住宅での暮らしを余儀なくされ、気持ちがふさぎ込み、語る気力を失った。
震災から数カ月後、自宅跡の周りを歩いていると、語り部で着る衣装を見つけた。楽しかった記憶がよみがえり「もう一度、舞台に戻ろう」と思い直した。震災の教訓と津波の悲惨さを後世に残そうと、被災体験を語る活動も始めた。現在も県内外に招かれては経験や思いを伝えている。
今も50話ほどのレパートリーが頭に入っている。物語の世界に入り込むのがうまく話すコツといい、「聞いてくれた人から拍手をもらうのがうれしい」とやりがいを語る。長生きの秘訣(ひけつ)は好き嫌いなく何でも食べることと、「生きがい」を持つこと。「語りのおかげで長生きできたのかな」と目の周りのしわを深めた。
■知事「元気もらった」賀寿贈呈式で民話披露
26日に誕生日を迎えた小野さんへの100歳賀寿贈呈式は28日、新地町役場で行われた。内堀雅雄知事、大堀武町長らが祝い状や記念品を小野さんに手渡した。親戚らが集まり、長寿を祝った。
小野さんは町内に伝わる民話「あんこ地蔵様」を披露した。家山和尚が新地を訪れ、あんこ地蔵様として親しまれるようになるストーリーを、大きく、はっきりとした口ぶりで語った。内堀知事は「本当に上手だった。小野さんに元気をもらった」と賛辞を贈った。