震災後、ガラス職人に転身した女性たち アトリエiriserを訪ねて(南相馬市小高区)

 

コロンとかわいらしいガラス製のネックレスやイヤリング。耐熱ガラスで作られているため、薄く軽く、丸みがあるので肌へのあたり心地がいいのも魅力です。

このガラスアクセサリーを作るのは、「アトリエiriser(イリゼ)」の職人さんたち。東日本大震災と原発事故により数年間帰還困難区域となった福島県南相馬市に住む、5人の女性です。もともと全員が素人で一から技術を身に付けた方たちと知り、ぜひともお話をうかがいたいと工房におじゃましました。

福島県南相馬市は、東日本大震災による津波、地震と原子力災害の両方で甚大な被害を受けた地です。鹿島区、原町区、小高区の3つの区から成り、福島第一原発からの距離を大まかに分けると、30キロより外に鹿島区、20~30キロ圏内に原町区、20キロ圏内に小高区があります。

今回取材で伺ったガラス工房「アトリエiriser」がある小高区の避難指示が解除されたのは、2016年7月12日(一部帰還困難区域を除く)。南相馬市の中心はJR原ノ町駅のある原町区ですが、小高区は町民による復興が精力的に行われていて、福島県の浜通りでも若い人の多い勢いのあるエリアです。その中心を担う企業の一つが「株式会社小高ワーカーズベース」です。

「自立した地域社会を実現する」ために「地域の100の課題から100のビジネスを創出する」ことを企業理念に掲げる同社は、小高で簡易宿所付きコアワーキングスペース「小高パイオニアヴィレッジ」の運営や起業型地域おこし協力隊「Next CommonsLab南相馬」事務局の管理運営など、さまざまな事業を行っています。

「アトリエiriser」も、現在は小高パイオニアヴィレッジ内にあり、企画・運営は小高ワーカーズベースが行っています。つまり、お会いしたガラス職人さんたちは、ここの社員として勤務しています。

JR小高駅から続く復興途中の街並みは、大きめのビルやチェーン店が並ぶ原ノ町駅周辺と比べると、畑や民家がゆったりと建つ、のどかな田舎町。通りすがりに目が合った年配の女性が挨拶してくれたり、空を見上げれば白鳥のつがいが飛んでいたりと、穏やかな空気を感じました。

駅から8分くらい歩いた場所に、小高パイオニアヴィレッジはありました。アトリエiriserの入り口は小高パイオニアヴィレッジと同じなので、受付で申し出て、隣のガラス工房へ。取材日に出勤していた4人の職人さんに、工房のなりたちや入社の経緯についてうかがいました。

1人目の職人さんとして採用された佐川美和子さんは、意外にも東京出身の方でした。浜通りに友人がいた関係で、2014年から南相馬市に移住していたときに、小高ワーカーズスペースの和田社長と知り合いました。

「和田さんから、耐熱ガラスメーカーのHARIOが耐熱ガラスで職人が一つ一つ手作りするアクセサリーブランド『HARIO Lampwork Factory(ハリオ ランプワークファクトリー。以下、HARIO)』を設立すること、その生産工房の一つを小高に作ることを聞いて、やってみたいと手をあげたんです」。

佐川さんが東京でHARIOの養成講座を受けて技術を習得し、2015年8月に小高に工房「HARIO Lampwork Factory小高」がオープン。その後入社してきた方たちは、佐川さんと年に数回HARIOから派遣されてくる先生の指導の元、技術を習得していきました。

工房開設半年後に入社したのが、原町区出身の和田昌子さん。ガラス職人になるまでは、原町で店舗スタッフの仕事をしていたそうです。「避難したものの、2011年の4月には勤めていた店が再開するから帰ってくるように言われて、原町に戻りました。まだ避難解除前だし店はすぐ前まで津波が来た場所。余震も続いていたので怖かったですね。その仕事を2015年の年末に辞めるくらいのタイミングで、小高にガラス工房があることを知って。来てみたら、ワーカー募集の張り紙があったので、『次は楽しい仕事をしよう』と思ってここに決めました」。

「最初は小高の駅前にあった会社の事務所の、6畳もないくらいの空きスペースが工房で、道具もあるから狭かったよね(笑)」(佐川さん)。

今では鮮やかな手さばきで次々と細かいパーツを作っていた和田さんですが、「入社数カ月はひたすらガラスとバーナーの扱いに慣れる作業を繰り返しでした。佐川さんや、年に数回来てくれるHARIOの先生に聞いて少しずつ覚えていった感じです。今でもまだまだですけど、ガラス職人以外の仕事は考えられなくなりました」。

開設1年後に入社したのが、鹿島区出身の岡本美奈子さん。避難と育児で仕事を辞めてから少しブランクができていました。「家族と群馬県に避難していましたが、地元が好きだったので避難先で家を建てることはせず、戻ってきていました。下の子が幼稚園、上の子が小学校にあがったくらいのときに友達から工房の話を教えてもらったんです。友達と軽い気持ちで体験にきてみたら、溶かしたガラスを加工していく感じが飴細工みたいで面白くて、やってみようと思いました」。勤務時間を調整できるため、子育てと両立する上でも働きやすいそうです。

その後、工房は元美容院だった場所に移転し、2018年12月に小高パイオニアヴィレッジができるにあたり、再度移転。2019年3月には、自分たちのブランド「iriser」も立ち上げ、現在工房では、HARIOブランドとiriserブランド、両方の製品を作っています。

イリゼブランドができてすぐの頃に入社したのが、小高区出身の坂本一美さんです。「震災後は鹿島の復興団地に住んでいましたが、2016年に避難指示が解除されて小高の自宅に戻ってきました。工房の存在は地域でも話題になっていて、南相馬市の広報にも何度も掲載されていました。もともと手芸が趣味なのでガラス細工もやってみたいと思っていたんですが、なかなか一歩が踏み出せずにいて。前の仕事を辞めるタイミングで思い切って体験に来て、入社を決めました」。思い描いた形ができるのが楽しいと話す通り、作業スペースには坂本さんが練習がてら作ったかわいらしいガラス細工がたくさん飾られていました。

「iriserブランド設立当初のオリジナルデザイン『オフショア』『ていてつ』『おだかうめ』は、HARIOからアドバイスをもらいながらデザインを考えました。外部のデザイナーさんにアドバイスをもらったものもありますが、『アンフィニ』は岡本さんが考えたりと、自分たちでもデザインを考えています。商品の魅力は、ガラスでしか出せない透明感であったり、1点ものというところ。同じデザインでも、1点1点多少表情が違うところもハンドメイドの味わい深さだと思っています」(佐川さん)。

新作は好きなアロマオイルを入れて使用できるアロマアクセサリーのシリーズ。工房にはショップも併設しているので、職人さんたちが製作している様子を見学しながら、商品を選んで購入することもできます。

工房では、バーナーを使ったガラスアクセサリーの有料製作体験もできるので、私も坂本さんに教わりながら、製作体験にチャレンジしました。

体験するのはペンダントトップ作りで、雫の形と葉っぱの形を選べます。

雫は自分で形を作っていき、葉っぱは型押しして作るそうで、「ちょっとだけ雫のほうが難しいかも」と言われたのですが、透明感があって丸みがかわいらしい雫を作ることにしました。

使用するものはすべて貸してもらえて、職人さんがつきっきりで教えてくれるので、安心です。

こんな流れで作ります↓。

1、土台になる雫づくり。直径8mmのガラス棒の、端から1センチくらいのところにバーナーの火をあててそこを細くしてくびれを作る。

2、雫のお尻にあたる部分に、細いガラス棒をくっつける(これは雫の頭部分を作業する際の持ち手になる)

3、左右を持ち替えて、細いガラス棒を持って雫の頭部分に火をあててガラス棒と雫を切り離す

4、切り離した雫の頭部分に、紐を通すための半円のわっかを溶着する(このわっかはスタッフの方が作ってくれているものを使用)

5、溶着部分が割れないように、ある程度の太さにしながら、わっかの形を整える

6、持ち手にしていた細いガラス棒に火をあててカット。ぼこっとなってしまっている部分をなだらかにする

7、熱を冷まして完成。スタッフが穴に紐を通してペンダントにしてくれる。

(キャプ)製作で使った8ミリのガラス棒。職人さんが作る商品は繊細なので、もっと細いガラス棒を使用しています。

バーナーの火がよく見えるよう、特殊メガネをかけて製作開始。

「バーナーからは2000度近い炎が出て、炎が見えるのは10センチくらいでも、倍くらいまで熱風があるので注意が必要です。作業する手を入れ替えたりする際には、バーナー側ではなく、手前から移動してくださいね」など、坂本さんから事前に工程や注意事項をしっかり教えてもらっていたものの、いざ自分がバーナーの前に座るとあたふた……。ガラスが思いのほか早く熱が入って変形し始めるので、タレ落ちないようにくるくる回しながら形を整えるのはかなり難しい作業でした。「いいですね。上手にできてます」と褒められて油断したとたんに形が変わってしまったりして、思っていた以上に集中力や根気がいります。右手と左手で違う動きをするのが得意な人は向いているかもしれません。

坂本さんから「失敗しそうと思ったら、ガラス棒を火から外せば大丈夫です。落ち着いてやりましょう」と励まされたり、泣きついてちょっと修正してもらったりしながら、なんとか作り終えました。

(キャプ)ガラス棒にバーナーの熱を当てるとまたたくまに解けるので、手をくるくる回して垂れ下がりを防ぎながら雫の形を作っていきます。少しガラス棒を斜めにしながら回した方がやりやすい。

(キャプ)ピンセットは、わっかのサイズを調整したり、切り離したガラスのぼこっとなっている部分をカットしたりするときに使います。バーナーの中で使うとガラスとくっついてしまうので、バーナーからガラス棒を出して熱いうちにピンセットを使うのですが、これまた右手と左手の動きが鈍い。

(キャプ)最も苦戦したわっか部分。あらかじめ作ってくれているわっかを雫に溶着し、わっかの太さや大きさを調整するだけなのに、均一の太さになかなかならないうちに、溶けてどんどんわっかが塞がっていく事態に。

(キャプ)ショップでは、iriserブランド、HARIOブランドのほか、それぞれの職人さんが作った作品も購入できる。

最後に、皆さんにガラス職人に必要なスキルをうかがうと、「集中力?」(和田さん)、「いや、体力でしょ(笑)」(佐川さん)といった答えが返ってきました。同じ姿勢で集中して細かな作業を行うので、体力が必要なんだそうです。

「体験が終わったときに『大変だった』という感覚より、岡本さんの『飴細工を作っているみたいで楽しい』とか、坂本さんの『自在に形を変えられると気持ちがいい』のように充実感がある人は向いていると思いますね。作っているときにアドレナリンが出ているはず(笑)」(和田さん)。

「バーナーを使ってガラスを溶かすことって、日常生活では味わえない感覚だと思います。熱が加わったとたんに溶けていくガラスを形作っていく感覚は、モノづくりが好きな人ははまると思います。ぜひ製作体験もしてみてください」(佐川さん)。

経験ゼロから技術を習得して、より高みを目指してイキイキと製作に励まれている職人さんたち。みなさん女性としても輝いていて、アットホームな工房でした。

アトリエiriser(イリゼ)
住所:福島県南相馬市小高区本町1-87小高パイオニアヴィレッジ内
TEL:0244-26-4525
営業時間:10:00~18:00(土日祝休み)
企画・運営:小高ワーカーズベース
URL:アトリエiriser(イリゼ)

【製作体験】

製作できるもの:ガラスバーナーワークで製作する葉っぱ型か、しずく型のペンダントトップ(仕上がったものをペンダントにして持ち帰りができます)

所要時間:約60分
予約について:2日前までに申し込み。
1回2名まで(キャンセルする場合は、前日までに電話かメールで連絡)

料金:1人3000円、2名1組の場合は5000円(いずれも材料、バーナー使用料、サービス料、保険料込み)を当日支払い
対象年齢:中学生以上
服装:汚れても良い服装

ホシカワミナコフリーランスの編集者・ライター

投稿者プロフィール

干川美奈子/フリーランスの編集者・ライター。長野日報東京支社広告営業、大村書店書店営業を経験後、女性向け情報紙「東京パノラマ」、TVスポーツTV誌「TV sports 12」、育児・教育誌「プレジデントFamily」、ビジネス誌「プレジデント」の編集部に在籍。「こだわって、楽しく」をモットーに、雑誌・書籍・紙媒体・WEBなど、さまざまなメディアで活動中。
この仕事の醍醐味は人との出会い。今回の浜通り取材は、バスや電車を乗り継ぎ、歩き回って浜通りの各自治体を体感してきました。ご協力いただいたみなさま、お力添えくださったみなさまにお礼申し上げます。

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