性の多様性に理解を求め活動 福島県いわき市の「さんかく」代表・かなこさん 住みよい古里に

 
 福島県いわき市の市民団体「さんかく」代表のかなこさん=仮名、同市出身=は性的少数者(LGBTなど)として生きづらさを抱えながら思春期を過ごした。9月のいわき市長選では候補者に性的指向などについての公開質問状を送り、古里のLGBTを取り巻く環境を変えようと活動を続ける。衆院選も控える中、「私たちが声を上げ、議論を深めてもらうきっかけにしたい」と話す。

 かなこさんは中学時代に同性も恋愛対象になると気付いた。ただ、学校の家庭科の授業では女性が結婚して子どもを産むのは当然のように話が進み、同級生は差別的な言葉で同性愛者を笑いのネタにしていた。「バレちゃいけない」と思い、話を合わせて笑っているうちに自分の存在を否定するようになった。

 転機が訪れたのは都内の大学に進学してから。学内のイベントで初めて自分以外の当事者と出会い、自らの性的指向を他者に伝える「カミングアウト」ができるようになった。卒業後はNPOに所属し、全国の自治体や学校でLGBTの現状や当事者の経験を伝える仕事に就いた。激務だったが、充実感は大きかった。

 各地を飛び回っていた2018(平成30)年、ある国会議員が「LGBTに生産性はない」という趣旨の文章を雑誌に寄稿していたことが世間をにぎわせた。かなこさんの周囲では「おかしい」と声が上がり、デモに参加する人もいた一方、会員制交流サイト(SNS)ではいわき市の同級生らが議員に賛同するコメントを書き込んだ。「東京では周囲の理解ある人に守られているけど、地元は私がいた頃と変わっていないんじゃ…」。大きなショックだった。

 地元で悩む人のために自分の経験を生かせないか―。そう思い、2019年にUターンした。県内の関係団体と交流を続け、今年3月、「さんかく」を立ち上げた。3カ月に一度、いわき市で交流会を開き、当事者だけでなくLGBTについて学びたい人たちとの対話を続ける。

 市長選の公開質問状も活動の一環だった。同性カップルを法的に認める「同性パートナーシップ制度」を導入すべきかや、性の多様性を巡る教育を充実させるべきかなど8項目を設けた。回答はインターネット投稿プラットホーム「note(ノート)」で公開し、誰でも閲覧できるようにした。

 ただ、福島県内でLGBTについての議論はまだ進んでいないと感じる。ジェンダーや選択的夫婦別姓制度に関わる問題が各政党の公約に盛り込まれるなど、性や家族の在り方に関心が集まる中、今回のいわき市長選で性的少数者に関する施策を明記した候補者はいなかった。「地元では声を上げづらい人も多い。私たちが活動を続けて少しでも生きやすい環境をつくっていきたい」

 ※「さんかく」の次回交流会は9日午後2時から、いわき市内郷内町のソーシャルスクエアで開かれる。交流会の申し込みや活動への問い合わせは、さんかくの投稿プラットホームのノート https://note.com/sankaku_iwaki/から。

   ◇   ◇

 全国各地の自治体で同性カップルを公的に認めるパートナーシップ制度が増え、「LGBT」という言葉の認知度も高まる中、福島県内での議論や取り組みは進んでいるのか。ジェンダー・セクシュアリティーの社会史を専門とする福島大教育推進機構の前川直哉特任准教授(44)に聞いた。

 ―LGBTについての課題は国政選挙の争点にもなり始めた。

 「欧米では2000年代から大統領選などで同性婚を巡る議論が盛んで、日本でも争点になるのは自然な流れです。ただ、現在の日本で同性婚やパートナーシップ制度を考える際『新たな権利を付与する取り組み』とみられがちですが、これは違います。同性同士という理由だけで結婚できないのは人権が制限されている状態です。同性婚などを巡る議論は新たな権利の付与ではなく、制限された人権を本来の姿に戻そうという取り組みです」

 ―福島県の現状は。

 「福島県は2016(平成28)年度に改定した男女共同参画プランで『性自認や性的指向にかかわらず等しく尊重され受容される社会の実現』を掲げました。県立中高入試の入学願書から性別欄が廃止されるなど制度改革は進んでいます。一方で、性的少数者を含む多様な背景を持つ人をしっかり受け入れる土地だという強いメッセージは打ち出せていません。原発事故でいわれなき差別を受けた経験がある県だからこそ、福島県内のリーダーたちに明確なメッセージを打ち出してほしい」

 ―行政の取り組みが進まないことでどんな不利益が生まれているか。

 「福島で働きたい、復興に携わりたいと思いながら、性的少数者として福島で生きづらさを感じ、進学や就職を機に首都圏などに転出した若者を何人も知っています。現在は全国で100以上の自治体がパートナーシップ制度を導入し、全人口の4割をカバーしているとされています。当事者に関わらずリベラルな施策に魅力を感じる若年層が多い中、多様性への理解が遅れた土地という印象を持たれて良いことはないですよね」

 ―当事者の声を政治や行政に届けるには。

 「一つは地元メディアがしっかりと取り上げることです。選挙報道などで地方紙には大きな力があります。報道することで多くの人の意識を変えることにつながるはずです。また、県内では当事者や支援者による活動も盛んになっています。彼らが声を上げている後ろには、声を上げられなかった何倍もの人たちの思いがあるということを意識してほしい。あとは政治や行政がこうした当事者の声にどう応えるかだけです」

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