福島県知事「県民の厳しい目忘れるな」 全社挙げた対策要請 処理水放出計画の着工了解めぐり

 

報道陣の取材に応じる内堀知事(中央)。左は伊沢町長、右は吉田町長

 

2022/08/03 10:35

 

 「福島県民が厳しい視線を向けていることを十分認識してほしい」。東京電力福島第一原発の処理水海洋放出計画で、福島県と原発立地自治体の大熊、双葉両町が二日、東電に設備の本体着工を了解すると回答した席上、内堀雅雄知事は東電の小早川智明社長に対し、国内外の理解が十分得られていない現状を指摘し、全社を挙げて対策に取り組むよう要請した。吉田淳大熊町長、伊沢史朗双葉町長は処理水の海洋放出に向けた工事を安全に進めるよう求めた。

 

 会談は午後五時、県庁本庁舎二階にある一室で始まった。内堀知事と吉田、伊沢両町長は、小早川社長ら東電関係者と向き合い、回答書を読み上げた。内堀知事は海洋放出により新たな風評が発生する懸念、放出反対や復興への影響を危惧する声があると指摘。東電に対し、「故障した地震計の放置など、相次ぐ不祥事で県民が不信感を抱き続けている」と苦言を呈した。その上で、職員の意識改革を図り、全社を挙げて取り組んでほしいと求めた。

 両町では、特定復興再生拠点区域(復興拠点)の避難指示が解除されたり、解除の日程が決まったりするなど、原発事故から十一年の時を経て復興・再生の動きがようやく緒に就いた。吉田町長は「古里の再生に弾みを付けようとしている。万全な体制で取り組んでほしい」と訴えた。

 双葉町では、今月三十日に避難指示が解除される。伊沢町長は「町民が現実に生活を始めることを認識してほしい」と求めた。

 内堀知事、吉田、伊沢両町長からそれぞれ回答書を受け取った小早川社長は政府の基本方針を踏まえ、安全を確保した設計や運用などを進めるとし「処理水の取り扱いについて関係者の理解が深まるよう全力で取り組む」と約束した。

 終了後、内堀知事と吉田、伊沢両町長は報道陣の取材に応じ、「責任を持ち、風評対策などに取り組むことが重要だ」などと述べた。東電の小早川社長は「安全性のみならず、住民の安心が得られるような取り組みを検討していく」と語った。

 

■風評の上乗せ懸念 県内団体

 県内の各団体は風評の上乗せを懸念し、国や東電に対策強化を求めた。

 県漁連の野崎哲会長は「海洋放出反対の立場が変わるわけではない」と姿勢を崩さず「国や東電には、安全だということをきちんと伝えてほしい。県などは東電に対する八項目の要求も改めて強く訴えてほしい」と語気を強めた。

 県商工会議所連合会長の渡辺博美福島商工会議所会頭は「廃炉作業を遅延なく進めるためには工事着手の了解は一定程度理解する」との認識を示す一方「国が前面に立ち、漁業関係はもとより、商工業・農業関係などから幅広く声を聞き、しっかりとした対策を進めてほしい」と求めた。

 管野啓二JA福島五連会長は「県民の理解が進んでおらず、農林水産業に風評が及んでしまう。まずは処理水に関する正しい情報を発信し、国民への理解を得てほしい」と述べた。県森林組合連合会の田子英司会長は処理水の科学的な安全性が国民に浸透していないとし、「現状のまま放出されれば、本県林業への風評も避けられない」と懸念。吉川毅一県生活協同組合連合会長は「風評を防ぐ具体的な対応を求める。理解が得られていない中での放出は現段階で容認できない」とした。

 県市長会長の立谷秀清相馬市長は「知事や立地町長の判断を重く受け止める」とする一方、「引き続き関係者の理解と納得を得ることはもとより、補償をはじめとする適切な支援を求める」とコメントした。

 処理水の処分方法などを検討する政府の小委員会の委員を務めた福島大食農学類の小山良太教授は「風評発生を防ぐには国民的な理解醸成が必要だ。政府は全国の消費者に安全性を理解してもらえるよう本気で努力していくべきだ」と求めた。

 

■漁業関係者「放出容認は別問題」

 漁業関係者からは「工事の了承と海洋放出の容認は別問題」との声が上がり、原発事故の被災者らは国民の理解が得られる情報発信などを求めた。

 相馬双葉漁協組合長の今野智光さん(63)=相馬市=は「設備工事の了承と海洋放出を認めるか否かは別。海を生活の場としているわれわれとしては、あくまでも(海洋放出には)反対だ」と強調した。

 いわき市で避難生活を送る双葉町の農業沢上栄さん(72)は「流すことは仕方がない。ただ、国民の納得を得られるよう努力を続けてほしい」と願う。大熊町から会津若松市に避難している荒井覚さん(73)は「健康に何も影響が出なければいいが、やっぱり心配」と話した。

 国見町でモモを生産している農業鈴木耕治さん(71)は「海洋放出されれば影響がいつまでもついて回るのでは」と不安視し、下郷町の大内宿保存整備財団の代表理事で三沢屋を営む只浦豊次さん(67)は「地元を含め国内外で理解が醸成されたとは思えない」と指摘した。

 

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