「ようこそ」あふれる双葉に 復興拠点避難解除 福島県双葉町

 

避難指示解除を祝うイベントで、町のキャラクター「双葉ダルマさん」と喜びをかみしめる宇名根さん

 

2022/08/31 09:23

 

避難指示が解除され、自宅で喜びをかみしめる谷津田さん

 

 「ここからが本当のスタート」。30日に特定復興再生拠点区域(復興拠点)の避難指示が解除された福島県双葉町で、町民は地域の新たな未来をつくろうと決意を新たにした。

 

■移住定住を促進 宇名根良平さん(46)

 「まちづくりを加速するには、人がいることが何より大事だ。移住定住を促進し、町の復興をけん引していきたい」。まちづくり会社「ふたばプロジェクト」の事務局長宇名根良平さん(46)は30日、町内で今後整備予定の移住定住者向け拠点施設の現地調査や、移住を検討している人への説明などに当たった。

 待ち焦がれたこの日、午前0時の避難指示解除に合わせてJR双葉駅前で開かれたイベント「おかえりプロジェクト」で、町民代表として前に立った。駅前に設置された「希望のとびら」を勢いよく開いた。来場者の優しいまなざしが注がれ、お互いを思い合う温かい心が地域に戻った。

 11年前、役場職員として防災無線のアナウンスを担当していた。2011(平成23)年3月11日、大きな揺れに襲われた後、防災無線室に入り、町民に津波からの避難を呼びかけた。東京電力福島第一原発事故の状況が刻々と変わり、役場内も騒然とする中、手書きの原稿を用意して屋内退避や避難所の移動、周辺道路の被害状況などを夜遅くまで伝え続けた。

 翌日、町が川俣町への集団避難を決めた。「避難訓練では最後は必ず事態が収束していた。町ごと避難するなんて思ってもみなかった」。戸惑いを覚えながら町民に町から離れるよう告げた。その後、町は埼玉県に移るなど長期にわたる全町避難を強いられた。

 ふたばプロジェクトは生活再建や移住定住の促進などを図る「町空き家・空き地バンク」の業務などを担っている。帰還する意向を示している住民は多くない。にぎわいを取り戻すための課題は山積している。それでも、「今度は私たちが『ようこそ』といえる魅力ある町をつくっていく」と目を輝かせた。

 

■解放された感じ 谷津田陽一さん(71)

 双葉町長塚の医療法人役員谷津田陽一さん(71)は「引かれていた線がなくなり、解放された感じがする。太陽が出てきたようだ」と古里で暮らせる喜びをかみしめた。

 1月の準備宿泊開始から避難指示解除までの約7カ月間、ほとんどを自宅で過ごしてきた。30日、いつもより1時間以上早い午前4時半ごろに目が覚めた。「すがすがしい気分だった」。愛犬2匹と散歩し、コーヒーを飲んでゆっくりと節目の日を過ごした。

 「双葉には帰らない」。一度はそう決めた。相馬市に住宅を構えたが、古里への思いは薄れなかった。南相馬市に移り、自宅の修繕に努めてきた。相馬市の病院に通院し、買い物は浪江町に出向く。現時点で近所に帰還する住民はいない。不便さを感じる時もある。

 「帰る人が少ないのは正直がっかりしている。復興がさらに進み、幅広い世代が暮らす当たり前のまちの姿に戻ってほしい」と願う。

 

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