10月1日、福島県双葉町の「駅西住宅」入居開始 帰還する住民ら古里での生活心待ち
10月1日から入居を開始する駅西住宅。入居者や来訪者が交流を深められるよう工夫されている
2022/09/27 09:40
福島県双葉町が、帰還する住民らの生活拠点としてJR双葉駅西側に整備した町営住宅「駅西住宅」は10月1日に入居が始まり、帰還や移住の動きが本格化する。無職猪狩敬子さん(79)は、26日に町役場新庁舎で行われた鍵引き渡し式で、入居者代表として鍵のレプリカを受けた。約11年半ぶりの古里での生活。「豊かな自然に囲まれた町での暮らしが本当に楽しみ」と帰還を心待ちにした。
「ようやく戻れる」。現地で開かれた内覧会で新たな生活を始める部屋の鍵をあけると、気持ちが高ぶった。双葉駅東側で暮らしていた自宅とは大きく違う1DKの間取り。それでも、幼少期から住み続けてきたまちに再び暮らせる喜びがこみ上げた。1人で過ごす避難先の白河市から、11月にも引っ越しをする。
双葉の豊かな自然が大好きだった。緑にあふれるまち、爽やかな風…。避難生活で県内外を転々としたが、古里の空気が忘れられなかった。「双葉に来るとやっぱり安心する」と落ち着いた気持ちになった。「帰還したらのんびりと散歩をしてゆっくりとまちを歩きたい」と思い描く。
「古里に帰りたい」。東日本大震災と東京電力福島第1原発事故発生直後からずっと願い続けてきた。理由は夫の正さんへの思い。ともにお酒が好きで晩酌をするなど楽しい日々を古里で過ごしてきた。ただ、病に苦しみ、30年近く前に50歳の若さで亡くなった。お墓は町内にある。最愛のパートナーのそばにいたかった。
避難生活の中でも毎年古里に戻り、墓参りを続けてきた。「必ず帰るよ。待っててね」。訪れる度に語りかけてきた。間もなく願いがかなう。「帰還したらすぐに”戻ってきたよ”と報告したい」と誓っている。