1日限定復活の直売所に行列 福島県大熊町から千葉に避難の果樹農園 5代目が亡き父の遺志継ぐ
大熊町の直売所を復活させ、1日限定でキウイを販売する元樹さん(左)
2022/11/03 21:05
福島県大熊町の果樹農園「フルーツガーデン関本」は3日、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の影響で休止していた町内の直売所を復活させ、1日限定でキウイを販売した。震災と原発事故前、キウイやナシは町の特産品だった。農園5代目の関本元樹さん(22)が、志半ばで他界した父の遺志を受け継ぎ、避難先の千葉県で栽培した「大熊の味」をよみがえらせた。
フルーツガーデン関本は大熊町で100年以上にわたり果物を生産していた。甘く、みずみずしい果実は町内外から人気を集めた。原発事故により避難を強いられ、元樹さんの父信行さんは震災の約2年後に千葉県香取市で再びナシの栽培を始めた。「場所がどこでも俺が作れば大熊産」と再開を喜んだが、2017(平成29)年8月、がんにより55歳で亡くなった。
父の死後、農園3代目の祖父好一さん(87)が、得意とするキウイを栽培していた。元樹さんは好一さんの手伝いをするうちに「父と同じ道を歩みたい」思いが強まった。就農を決意し、今春から5代目の園主となった。
大熊町の農園は直売所を残していた。6月に農園周辺の避難指示が解除され「町のために何かできないか」と考えた。ナシの生産にはまだ時間がかかり、まずはキウイを町民らに届けようと決めた。
「復活祭」と題して開いた3日の販売会には、開始前から約50人が列を作った。5品種計約400キロを販売し、終了時刻の約1時間前に完売する盛況ぶりだった。町民同士の再会もあり、「久しぶり」などの声が響いた。
約20個を買い求めた町出身の小学校教諭佐伯哲夫さん(60)=いわき市に避難=は、信行さんの幼なじみで農園が大好きだった。「(信行さんは)ずっと大熊に戻りたいと言っていた。息子が頑張ってくれて頼もしい限り」と笑顔を見せた。
元樹さんは「町民の笑顔を見ることができてうれしかった。父に恩返しができ、『おかえり』と言ってくれているはず」と感慨に浸った。来年の開催も見据える。「大熊で販売するのに意味がある。これからも魅力ある果物を作っていきたい」