「今度は自分が誰かの力に」 福島県双葉郡に17年ぶり女性保護司 避難生活支えてくれた人のため

 

保護司委嘱辞令を手に地域を大切に思う気持ちを分かち合う酒主さん(左)と橋本さん

 

2023/02/09 09:15

 

 福島県双葉郡に女性では17年ぶりに新任保護司が誕生した。楢葉町の酒主千咲さん(46)は犯罪や非行をした人の社会復帰に向けた活動へ準備を進める。東日本大震災と東京電力福島第1原発事故に伴う避難の影響で郡内の保護司充足率は45・7%と県内で最低。避難生活を支えてくれた人たちの顔を思い浮かべ、「今度は自分が誰かの力になりたい」と意気込む。

 酒主さんの自宅は楢葉町井出に古くからある大楽院だ。原発事故に伴い自分と長女、長男は実家のある茨城県北茨城市、町職員だった夫の秀寛さん(51)は会津美里町に避難。先行きが見えない避難生活だったが、周囲の人たちは「何か困っていることはないか」とたびたび酒主さん家族に声をかけてくれた。子どもたちには農業体験もさせてもらった。

 2017(平成29)年3月に家族そろって町内での生活をスタートした。地元の人たちは「おかえり」と笑顔で迎えてくれた。震災と原発事故という苦難の中、人の心の温かさを改めて実感した。

 双葉地区保護司会長の橋本盛一さん(74)=楢葉町波倉=から誘いを受けたのは昨年6月だった。犯罪や非行をした人が立ち直れるよう後押しする。不安も大きかったが、秀寛さんから「前向きで軸がしっかりしている。周りに流されず相手と向き合える」と勧められた。避難を通して強く感じた思いを胸に「困っている人を助け、住んでいる地域を良くしたい」と保護司になる決断をした。

 双葉郡内の保護司は震災前に35人いたが、現在は16人にとどまる。責任の重さを感じつつ、「保護司としての活動を通して自分にしかできないことを見つけたい」と前を向く。

 先輩保護司から助言を受けつつ、保護司研修の資料をもとに法律や制度を勉強し必要な知識を深めている。やがて対象者を受け持つことになる。10代後半の子を持つ母親としての経験も役立つはずだと自らに言い聞かせる。「人の心をつなぐ役割を受け継いでほしい」と願う橋本さんに、「相手に寄り添い、共に歩む存在になりたい」と理想を語る酒主さん。地域と人を大切に思う気持ちは次の世代につながっていく。

 

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