福島県漁連、重ねて反対 「理解なく放出しない約束」 経産相、処理水報告書説明
福島県漁連の拡大理事会に臨む野崎会長(左)と西村経産相=福島県いわき市
2023/07/12 09:28
東京電力福島第1原発の放射性物質トリチウムを含んだ処理水の海洋放出を所管する西村康稔経済産業相は11日、福島県いわき市で開かれた県漁連の拡大理事会に出席し、国際原子力機関(IAEA)による処理水の安全性に関する包括報告書を基に海洋放出への理解を直接求めた。県漁連の野崎哲会長は反対の姿勢を改めて強調し、終了後に「漁業者として海で操業する観点、関係者の合意なしには海洋放出しないと約束した観点から容認する立ち位置には立てない」と表明した。政府が夏ごろとする放出開始が迫る中、新たな風評を懸念する漁業者の理解を十分に得られるかは依然として不透明だ。
会合は冒頭を除き非公開だった。西村氏はあいさつで「廃炉と福島の復興を進めるためには処理水の処分は避けて通れない」とした上で、「IAEAの包括報告書や原子力規制委員会の使用前検査を通じ、放出前の安全性が確認された」と説明した。野崎氏は「基本的に処理水の海洋放出には反対の立ち位置だ」と述べた。
出席した漁業関係者によると、西村氏の説明に一部で理解を示す声もあり「(人体に)影響がなく、理解も得て放出するなら仕方がない」との意見も出た。処理水を保管するタンクの状況や、廃炉作業への不安の声も上がったという。
会合後、西村氏は報道陣の取材に対し、出席者からIAEAによる監視やモニタリングなどを評価する意見があった一方、漁業継続や販路開拓に向けた国の支援を望む声が寄せられたと明らかにした。漁業者らの声を「大きな不安」と受け止め、「しっかりと寄り添い、丁寧な説明を重ねて信頼関係を深めていきたい」と繰り返した。
■経産相、説明継続の意向
政府と東電は2015(平成27)年、県漁連に「関係者の理解なしには(処理水の)いかなる処分もしない」と約束している。野崎氏は会合後、「この約束を守ってほしいという気持ちは変わらない」と主張。原発事故発生後に操業自粛、試験操業を余儀なくされた経緯を振り返り、「心配だ」と述べた。西村氏は「(約束を)順守する」と明言し、「今日の意見交換で終わりにすることはない」として説明を継続する意向を示した。
野崎氏は報道陣から「関係者の理解」の在り方について問われ、「(数十年後に)廃炉作業が完全に終わり、福島で漁業を続けられていたという状況になれば、ようやく理解するということだと思う」との見解を示した。
松野博一官房長官は11日午前の記者会見で「何をもって理解を得たかについては、何か特定の指標によって度合いを判断することは難しい」と言及。午後にも「漁業者の方々と意思疎通を密にして、安全性の確保と風評対策の徹底について繰り返し説明を重ねて懸念や要望にしっかり応えていく」と述べた。
東電の計画では、多核種除去設備(ALPS)で浄化できない放射性物質トリチウムを国の基準の40分の1(1リットル当たり1500ベクレル)未満に海水で薄め、海底トンネルを通じて原発の沖約1キロで放出する。
◇西村経産相が県漁連に説明した主な内容
・規制基準を満たさない処理水は海洋放出されないよう関連設備が構築された
・放出開始後もモニタリングなどの安全確保の取り組みを講じる
・人や環境への影響は無視できるとIAEAに評価された
・IAEAは放出開始後も現地事務所を置いてモニタリングを続ける
◇県漁連関係者からの主な意見
・IAEAが関与しているのは重要
・福島の漁業を続けていけるように支援を
・販路開拓に取り組んでほしい
・消費者に安全性をしっかり説明してほしい
※東京電力福島第1原発の処理水=1~3号機で溶け落ちた核燃料(デブリ)を冷やす注水や地下水、雨水で汚染水が発生し続けている。多核種除去設備(ALPS)で浄化したものが処理水だが、水素の仲間で三重水素と呼ばれる放射性物質トリチウムは取り除けず、敷地内のタンクで保管している。6月29日時点の保管量は約133万トンで、容量の約97%。国内外で稼働する原子力施設でも、トリチウムを含む水は各国の基準に従って海に放出されている。