〝双葉発〟の高品質糸、世界へ 福島県双葉町で事業所稼働の浅野撚糸 ベトナムで第1弾の商品開発
双葉事業所で実習を受けるベトナム人技能実習生。日本の高い技術を身に付け、同社の海外進出にも貢献する
2023/08/31 10:23
浅野撚糸(本社・岐阜県)は、福島県双葉町に4月に開所した双葉事業所「フタバスーパーゼロミル」で製造した高品質の撚糸(ねんし)を国外に売り出す。第1弾として9月にもベトナムの企業がホテル向けのタオルを開発し、販売を始める。中国やポルトガルの企業とも連携に向けた契約を結んだ。輸出が軌道に乗れば双葉の名を世界に向けてアピールする機会となるとともに、交流人口の拡大による地域活性化につながると期待される。
浅野撚糸は双葉事業所の稼働により生産能力が従来の2倍の年間約千トンとなるのを踏まえ、海外展開に乗り出す。ベトナムには年間120トンを出荷する計画。中国、ポルトガルにも年間60トンずつの輸出を視野に入れている。海外の有名ブランドからも注目を集めており、衣類やストールなどの素材として販路が広がる可能性を秘めている。売上高は将来的にこれまでの2倍超の50億円を目指す。
同社が製造する糸「スーパーZERO」は、綿糸とお湯に溶ける水溶性の糸をより合わせた後、水溶性の糸だけを溶かす特殊な工法で製造されている。空気を多く含むことで柔らかさを保ち、吸水性と速乾性、耐久性に優れる。同社が5年をかけて開発し、日本の他、米国やヨーロッパ、中国で特許を取得している。
製造した糸を用いた自社ブランドのタオル「エアーかおる」は2007(平成19)年6月の発売から累計1575万枚以上を販売しており、双葉町の復興を願って発売した「ダキシメテフタバ」は土産物として人気を集めている。
同社は年間の交流人口300万人を目標に掲げ、双葉事業所への行政や企業、商工団体、大学などの視察の受け入れに力を入れている。海外展開を機に訪日客の受け入れも進め、観光や視察で訪れる外国人に復興の現状を伝える。周辺に立地する企業と連携した商品開発などにも取り組み、来町者を地域ぐるみで迎える仕組みも整える考えだ。
双葉事業所の開所に合わせ、同社は新卒社員5人を含む11人を地元から採用した。働く場を創出し、帰還や移住の意欲向上に貢献する。今月からはベトナム人技能実習生を受け入れている。町で生活しながら技術を習得してもらい、母国の繊維産業の発展に貢献するとともに、同社の知名度向上や海外展開の拡充につなげていく。浅野雅己社長は「双葉町への立地を歓迎してもらえたことで海外展開という新たな夢も生まれた。町に恩返しするため双葉発の糸を世界に広めたい」としている。