【震災・原発事故14年】桜つなぐ福島県大熊町の記憶 中間貯蔵施設用地に土地提供、東大和久地区住民

ソメイヨシノの苗木を植える(前列左から)斎藤さん、吉岡さんら東大和久地区の住民有志
2025/04/07 10:52

古里の絆を桜に託した―。福島県大熊町の東[ひがし]大[おお]和[わ]久[ぐ]地区の住民有志は6日、地区から南西に約10キロ離れた町内大川原の頭[かしら]森[もり]公園に桜の苗木を植樹した。地区は全域が東京電力福島第1原発事故で出た除染土壌を一時保管する中間貯蔵施設の用地となり、ほとんどの住民が土地を国に売却。愛着のある地が忘れ去られる不安を抱き、記憶を後世に残そうと動いた。定期的に集まり、花見を通じて交流の場にする。「住民の思いを紡ぐ場所になってほしい」と心を込めた。
■古里望む公園に植樹
「大きく育って」。6日、避難先から住民16人が公園に集い、植樹に賛同した世帯数と同じ12本のソメイヨシノの苗木を植えた。スコップで丁寧に土をかぶせ、立派な成長を願った。苗木のそばには石碑も建立した。住民の名前が入り、「我らが愛の故郷 この地に在ったこと 伝えてほしい」と刻んだ。
東大和久地区には原発事故発生前まで約30世帯が暮らし、住宅や田畑が織りなす、のどかな風景が広がっていた。人々の交流や親睦が盛んだった。ただ、原発事故により県内外に避難を余儀なくされ、中間貯蔵施設の建設によりほぼ全ての住民が先祖代々受け継いできた土地を手放した。
避難生活の中でも住民が毎年1回、郡山市やいわき市に集まり、懇親会を開いて思い出や近況を語り合ってきた。一方、月日がたつにつれ「東大和久地区が世間から忘れられてしまう」との懸念が高まった。
古里の歴史をつなごう―。3年ほど前から元区長の斎藤重征さん(80)=郡山市に避難=、吉岡孝雄さん(75)=神奈川県鎌倉市に避難=が中心となり、古里継承の取り組みを探った。
住民と話し合いを重ね、幅広い世代がこよなく愛する桜を植えることを決めた。「地元の思い出や未来発展の願いを込めよう」と12世帯24人が試みに賛同。しかし、広大な中間貯蔵施設の用地が横たわり、地元の周辺には適当な場所はなかった。距離があっても東大和久地区を見渡せ、出入りが自由な頭森公園を選んだ。「無人になった故郷を見守ってくれる」と思えたからだ。公園を管理する町に許可を得て、1年ほど前から植樹の準備を進めた。
国は中間貯蔵施設から除染土壌を搬出し、2045年3月までの県外最終処分実現を法律で定めている。今後、長期間にわたり東大和久地区に自由に立ち入れない状況が続く。「東大和久桜」と名付け、離れ離れに暮らす住民が気軽に集まれる場にする考えだ。花見も企画し、絆を強めていく。
斎藤さんは「本当は古里に戻りたい。ただ、避難先で生活を築き、住民の高齢化も進んでいるため、現実的に難しい」と吐露する。しかし大きく育った桜が咲き誇り、かなたには中間貯蔵施設のない故郷が見渡せる将来を信じる。「東大和久の地名を後世に残すのを手伝って」と植樹したばかりの苗木を見つめた。