間違えてもいい食堂開店 「認知症」世界デーの21日限定 福島県いわき市の栗崎透さん、容子さん夫妻

 

「注文をまちがえる みんなの食堂」の開催を心待ちにする栗崎さん夫妻

 

2025/09/02 10:00

 

 世界アルツハイマーデーの21日、認知症患者がホールスタッフを務める飲食店が福島県内3カ所に1日限定でオープンする。認知症への理解を広めるための全国一斉の取り組みで、このうち、いわき市でフレンチレストランを営む栗崎透さん(63)は、妻の容子さん(63)の発症をきっかけに一度は閉めた店を再び開け、二人三脚で利用客をもてなす。将来は患者の居場所にしようと、継続的な福祉事業に発展させる構想も温める。栗崎さんは「誰もが認知症と、その家族になり得る時代」と寛容な社会の実現への一歩となるよう願っている。

 

 「一番何が楽しみ?」。栗崎さんの問いかけに、容子さんが「接客」と笑顔で答えた。いわき市平南白土の住宅街の一角にある店舗で2人がやりとりを重ねる。2023(令和5)年5月に閉店した「レストラン シェ栗崎」が「注文をまちがえる みんなの食堂」として1日限り再び大勢の客を迎える。ただし、店からお願いがある。少しぐらいの間違いは大目に―。

 30年近く営んだ愛着ある店を閉めたのは容子さんの発症が理由だった。ワインのシニアソムリエ資格を持ち、接客を一手に引き受けていたが異変は50代半ばに始まった。配膳が滞り、料理を提供したかすら思い出せない。58歳の時に若年性アルツハイマー型認知症と診断された。しばらくは常連客らの気遣いに支えられたが、コース料理で最大40席分をさばくのが次第に困難になった。栗崎さんは「今の規模のレストランを続けられない」と判断。別のカウンター席の小さな店をJRいわき駅近くに構えた。

 容子さんの症状の改善が見られず、2人は落ち込む時期もあったが、外部に打ち明けたことで徐々に前向きになれた。現在、容子さんは週4回のデイサービスに通いながら、毎日のように駅前の店に顔を出す。閉めていたレストランのスペースで今年1月、こども食堂が始まると率先して運営に関わるように。栗崎さんには生き生きとした妻の姿に「症状の進行を遅らせてくれる居場所」のように映った。

 世界アルツハイマーデーの取り組みへの参加を決めたのは、容子さんだけでなく、同じ境遇の人が気兼ねなく立てる飲食店をつくるきっかけにしようと考えたからだ。同こども食堂を運営するNPO団体と共に実行委員会を設立。当日は栗崎さんがコース料理を振る舞う。接客と配膳は容子さんの他、認知症の人と家族の会県支部の会員も加わる。肉か、魚かのメイン料理の注文を取り、前菜やデザート、ドリンクをテーブルまで運ぶ。こども食堂に通う児童がボランティアで手助けする。

 政府の推計では、認知症を患う人は増え続け、65歳以上に限っても2025年で472万人、2040年には584万人に上るとされる。県内では、8万7千人となる見込みで、発症した人が暮らしやすい環境の整備が急務だ。栗崎さんは「認知症が『自分らしさ』として受け止められる社会であってほしい」と理解の広がりへの願いを語る。

 当日は既に予約で満席。問い合わせは栗崎さんへ。

 

■福島と須賀川でも

 一般社団法人「注文をまちがえる料理店」の呼びかけで、全国各地の実行委員会が21日、一斉にイベントを開催する。いわき市を除く、県内開催は次の通り。料金はいずれも税込み。

 

★ばぁばとじぃじのごはん処(福島市)

 一般社団法人CARNIVAL WORKS(郡山市)が発起人となり、福島市の再生資源卸売業「こんの」が運営する大戸屋ごはん処福島北矢野目店を会場に開く。介護事業所を展開するツクイが協力する。午前10時30分からと、午後2時からの2部制。予約制で10組ずつ。1人1500円。問い合わせはCARNIVAL WORKS メールinfo@carnival-works.orgへ。

 

★ハプニングラーメン(須賀川市)

 福祉事業を展開するNPO法人豊心会を中心とした実行委員会が牡丹会館で催す。中華そば(900円)、冷やしラーメン(950円)、半チャーハン(350円)、ピザ(1200円)を提供。時間は午前11時30分から午後2時30分まで。一般来場者向けに50食程度を用意する。問い合わせは豊心会へ。

 

関連記事

ページ上部へ戻る