やらないとは言ってない 反論するが明言避ける【復興を問う 帰還困難の地】(72)

 

 「やらないとは言ってはいない」。菅義偉首相が二月の衆院予算委員会で本県選出の衆院議員からの質問に語気を強めた。東京電力福島第一原発事故による帰還困難区域の特定復興再生拠点区域(復興拠点)から外れた地域の除染、家屋解体の実施を表明しない政府の姿勢を問われた場面だ。反論はしたものの、「やる」とは明言しなかった。 

 国が定めた避難区域の解除要件には、年間積算線量が二〇ミリシーベルト以下となることや除染作業の十分な進捗(しんちょく)などが掲げられている。放射線量が比較的高い帰還困難区域の解除に向けては、除染や家屋解体による放射線量の低減が大前提となる。ただ、復興拠点外の除染に関して、政府は国会や地元との会談などでも一切、確約していない。帰還困難区域の住民からは「『時間がかかっても人が住めるようにする』との政府方針と矛盾している」との指摘が出ている。 

 復興拠点外の除染に向けた最大の障壁は、膨大な額の財源確保とされる。原発事故発生後、県内の除染では避難区域と、それ以外の地域のいずれの除染も国が費用を立て替え、東電に請求してきた。 

 一方、復興拠点の除染は仕組みが異なる。道路などインフラ整備と一体で線量を低減する点や、住民が長期にわたり戻れないことを前提にした賠償がされている点などを踏まえ、東日本大震災復興特別会計から捻出した国費を充てている。同じ仕組みを拠点外にも適用した場合、国の負担となることが大規模な予算を充てにくい要因となっている。 

 「復興拠点外に対象を広げた場合、除染、家屋解体にはどのくらいの予算が必要になるのか」。三月の衆院東日本大震災復興特別委員会で、本県選出の衆院議員が質問をぶつけた。 

 復興拠点の除染、家屋解体などにかかる費用は、事業に着手した二〇一七年度から二〇二一年度までに二千五百億円超が充てられている。「復興拠点の環境整備にかかった予算や年数から計算すれば全体の費用、解除の見通しも見えるはず」と議員は質問の意図を明かす。 

 しかし、経済産業省福島復興推進グループの担当者は答弁で「拠点外を含めてどのような形で対応するか決まらなければ、試算は難しい」と明言を避けた。その後の取材に「線量が復興拠点より高い地域では、土壌の剥ぎ取りの量など除染の手法が異なる場合もあり、一概には算出できない」と主張する。 

 これに対し、ある政府関係者は「拠点外の方向性を示す前に予算規模を明示すれば、『除染ありき』で話が進められかねない」と帰還困難区域についての議論への影響を避けるためだと内情を明かす。 

   ◇  ◇ 

 帰還困難区域を抱える町村からは政府の復興拠点外への対応を巡り、ある懸念が出始めている。解除や除染について「各自治体の個別課題、要望に応じて」という文言が頻繁に使われ始めた点だ。 

 飯舘村は長泥行政区の拠点外について、年間積算線量が二〇ミリシーベルトを下回ることなどを前提に避難指示解除を求めている。政府は村の要望に応じ、未除染でも地元の意向に合わせて避難指示を解除できる仕組みを決めた。 

 ただ、飯舘村以外の帰還困難区域を抱える五町村でつくる協議会は、拠点外を含めた除染を国に強く求めている。協議会長の吉田数博浪江町長は「五つの町、村が抱える課題は、自治体によって違いがあるのは事実だ。ただ、帰還困難区域の全ての解除と除染を求めているのは共通した要望だ」と「除染なき解除」を強引に進めることのないよう訴える。 

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