双葉郡の農業再興に新会社 福島・富岡町にJA福島さくら
東日本大震災と東京電力福島第一原発事故で甚大な被害を受けた双葉郡の農業再興に向け、JA福島さくら(本店・郡山市)は8月、富岡町に新会社を設立する。被災地では高齢化や収益面での不安などを理由に営農再開に踏み切れない農家が多いとみられる。遊休農地を活用した作付けや生産受託を通し、農地保全と農産物の生産拡大、農家の経営安定化を後押しする。
新会社はJA福島さくらが100%出資する株式会社で、富岡町の同JAふたば地区本部の敷地内に事務所を設ける。今年は役員を含め10人が勤務する予定。将来的には50人程度の社員規模に拡大し、外国人や障害者、新規就農者の雇用も想定している。
管内の双葉郡8町村で、震災後に使われなくなった農地を活用する。コメに加え、相双地方で主要作物に位置付けられているタマネギ、産地化が進むサツマイモ、長ネギやブロッコリーなどを扱う。遊休農地を借り上げ、社員が栽培する。帰還、就農する生産者には同JAが持つ育苗、栽培、選果の技術と労働力、農産物の販売網を提供し、営農再開を支援する。
来年度以降に本格的な作付けを行う。農産物のブランド化や六次商品の開発に力を入れ、付加価値を高める。育苗施設や農産物の大規模乾燥貯蔵施設「カントリーエレベーター」の運営にも携わる。
同JAによると、2020(令和2)年度の水稲の作付面積は、避難指示の解除が早かった川内村や楢葉町などでは震災前の70%ほどに回復している一方、今なお避難指示区域がある富岡町や浪江町は15%以下にとどまり、大熊町と双葉町はゼロの状態だ。震災発生から10年が経過し、農家が帰還を諦めたり、高齢を理由に営農をためらったりするケースが多いという。
同JAの管野啓二組合長は「これ以上時間がたてば、現地での農業再開の意欲が低下し、田畑も荒れてしまう。被災地の農業の再生はわれわれに課された責務」と強調した。その上で「安定した生産を実現し、農産物のブランド力の向上、次世代を担う人材の育成にもつなげたい」と展望を語った。