【双葉の選択 8月30日復興拠点避難解除(4)】途絶えた営み再び光 担い手、風評被害が課題 福島県双葉町
「また地元で農業をやりたい」と思いを語る渡辺組合長=22日午前、双葉町
2022/08/28 10:30
福島県双葉町中心部から南西に広がる三字(さんあざ)地区。水稲栽培が盛んな地域だったが、既に営みが途絶えて11年半が経過する。地区出身で町農地保全管理組合長の渡辺浩美さん(61)はかつて水田だった農地を眺めながら「姿は変わったけど自分が生まれ育った地区。落ち着くよ」と話す。
町は2021年に策定した「地域営農再開ビジョン」で農業を町の基幹産業と位置付け、2025(令和7)年度から作付け面積の拡大を目指している。渡辺さんら組合員はそれぞれ避難先などから町に通い、除染が終わった農地の雑草を定期的に刈り取ったり、耕運機で耕したりしながら営農再開の前提となる農地の環境整備に取り組んできた。
営農再開に向けた動きの進捗(しんちょく)を踏まえ、町の特定復興再生拠点区域(復興拠点)内では昨年、水稲や野菜の試験栽培が行われた。このうち野菜については政府が今年4月、拠点内で栽培した野菜の摂取や出荷制限を解除した。
復興拠点の避難指示解除は町の基幹産業の再生への大きな弾みになる一方、11年以上にわたり全町避難が続いた影響は大きい。町が住民との座談会などで集約した営農再開への課題や意見は多岐に渡る。
町の農地管理を担う渡辺さんは大きな課題として担い手の確保を挙げる。拠点内には約193ヘクタールの農地があるが、組合員数は75人で85%が60歳以上になっている。
避難先に生活基盤ができた住民は多く、通いながらの農業は負担が大きい。郡山市から定期的に町を訪れる渡辺さんも、「農業をやるため町に戻りたい。ただ、俺らも年を取るので新しい人が来てくれればよいが」と不安と期待が入り交じる。
除染の問題もある。町が一時役場機能を置いた埼玉県加須市の無職西内重夫さん(79)は「今の状態で安心して営農を再開することができるだろうか」と不安を口にする。
西内さんも町農地保全管理組合の一員で、管理する地区は復興拠点内にあり農地の除染は終わっている。ただ、水田には、周囲の除染されていない山林などに降った水も流れ込む。「風評被害も懸念される。全域除染をしなければ我々には死活問題。国には責任を果たしてもらいたい」と指摘した。