<廃炉・処理水>デブリ取り出し難航 東京電力福島第一原発【震災・原発事故11年6カ月 福島県】

 

海底トンネルを掘り進める大型掘削機(中央)

 

2022/09/11 17:20

 

太平洋に延びる海底トンネル内部

 

 東京電力福島第一原発事故から11年半になろうとしているが、1~3号機原子炉格納容器内に残る溶融核燃料(デブリ)の取り出しには着手できていない。東電は8月、2号機からの取り出し開始時期を「2022(令和4)年内」から「2023年度後半」に再延期すると発表した。3号機からの取り出し工法として、建屋全体を巨大な水槽のような構造物で囲い建屋ごと水没させる「冠水工法」の導入案も浮上した。

 

■2号機の着手再延期 3号機「冠水工法」導入案も

 東電は2号機からの取り出し開始の再延期理由について「安全性と確実性を高めるため」としている。取り出しに使うロボットアームと呼ばれる大型機器やアームを動かす制御プログラムなどに改良すべき点が見つかった上、格納容器内から放射性物質が漏れないように密閉する「隔離部屋」と呼ばれる設備が損傷するトラブルも発生し、対策が必要になったという。

 東電は当初、2021年内の取り出し開始を目指していたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で機器開発が遅れ、2022年内に延期していた。再延期によって当初計画からは約2年遅れるが、30~40年かかるとされる廃炉作業の工程全体に「影響はない」としている。

 冠水工法は、原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)の2022年版「廃炉戦略プラン」の要旨に盛り込まれた。水には放射線を遮る効果があり、被ばく低減などの利点があるとしている。従来想定されていた「気中工法」に加え、冠水工法も検討を進める。

 1号機では、デブリ取り出しに向けた格納容器内部調査が行われている。容器底部を水中ロボットで撮影した結果、大量の堆積物が広範囲にある様子を捉えた。デブリが含まれている可能性がある。圧力容器を支える土台のコンクリート部分が損壊し、鉄筋が露出している様子も捉えた。

 デブリ取り出しは福島第一原発の廃炉の最難関とされる。炉心溶融を起こした1~3号機のデブリは総量で約880トンに上るとの推計がある。東電と国は2041~2051年までにデブリを取り出し、廃炉を完了させる計画だ。

 

■トンネル掘削進む 漁業者 風評懸念、強く反対 処理水海洋放出

 福島第一原発で増え続ける放射性物質トリチウムを含む処理水処分に向け、東電は処理水を沖合約1キロに放出する海底トンネルの掘削作業を進めている。シールドマシンと呼ばれる大型掘削機を使い、既に約80メートルを掘り終えた。全国の消費者に理解が十分に浸透していないとして、漁業者は風評被害の恐れから海洋放出に強く反対。2023年春ごろとする政府の思惑通りに放出を開始できる保証はない。

 福島第一原発では処理水をためる1060基のタンクが林立し、敷地を圧迫している。8月25日現在、タンク容量全体の96%に上る約131万トンの処理水がたまる。東電は原子力規制委員会から放出設備着工に必要な認可、県、大熊、双葉両町から同意を得た。県は要求事項として工事の安全性確保やトラブルの未然防止など8項目の順守を東電に求めている。

 政府は8月30日、風評抑止策などを盛り込んだ行動計画を初めて改定し、全国的な情報発信の強化などを盛り込んだ。ただ、取り組みの効果の検証を含め、国民理解の醸成に結び付けられるかは不透明だ。

 県内では漁業者を中心にあらゆる産業、市町村議会などから新たな風評の発生への懸念や慎重な対応を求める声が根強い。政府が3日にいわき市で開いた「廃炉・汚染水・処理水対策福島評議会」で県町村会長の遠藤智広野町長は「処理水は日本全体の問題」と指摘し、風評抑止に向けた情報発信の徹底を訴えた。

 

■廃炉・処理水 処理水処分を巡る経過

 

2011年

3月11日 ▼東日本大震災、東京電力福島第一原発事故

 

2013年

3月 ▼汚染水からトリチウム以外の放射性物質を取り除く多核種除去設備(ALPS)が試運転開始

 

2015年

6月 ▼政府の有識者作業部会がトリチウムを含んだ処理水について海洋放出や地下埋設など5つの処分方法を提示

 

2016年

4月 ▼海洋放出が最も短期間で低コストとの試算を作業部会が公表

11月 ▼政府小委員会が初会合

 

2017年

7月 ▼東電の川村隆会長(当時)が報道各社のインタビューで海洋放出について「判断はもうしている」と発言

 

2018年

7月 ▼小委が処理水の保管タンクを将来撤去する方針を了承

8月 ▼処理水にトリチウム以外の放射性物質が残留していることが発覚。月末の公聴会では海洋放出への反対表明が多数

 

2019年

8月 ▼タンクによる長期保管の可否が小委の議題に上る

9月 ▼処理水に関し、原田義昭環境相(当時)は記者会見で「所管外ではあるが、思い切って放出して希釈する他に選択肢はない」と発言 ▼松井一郎大阪市長と吉村洋文大阪府知事は科学的に環境被害がないという国の確認などを条件に、大阪湾で放出する可能性に相次いで言及

 

2020年

2月 ▼海や大気への放出に絞り込み、「海洋放出の方が確実に実施できる」と政府に提言する報告書を小委が公表

4月 ▼国際原子力機関(IAEA)が小委報告書の支持を表明

4~10月 ▼政府が県内外で関係者からの意見聴取会を開催。海洋放出への反対や丁寧な説明、風評対策を求める意見などが出る

6月 ▼全国漁業協同組合連合会(全漁連)が通常総会で「海洋放出に断固反対」とする特別決議を全会一致で採択

10月 ▼政府が2020年4月から実施してきた意見公募の結果を公表。海洋放出に懸念を示す意見が5000件を超し、主な意見で最多となる

 

2021年

1月 ▼東電が原発敷地内の処理水保管タンクの総容量が満杯になる時期について、汚染水発生量低減のため2022年秋以降となる見通しを示す。当初は2022年夏ごろと試算

4月 ▼政府が関係閣僚会議を開き、処理水の処分方法を海洋放出とする基本方針を決定 ▼復興庁がトリチウムをキャラクター化したが、批判を受け公開休止し修正 ▼内堀雅雄知事が政府の基本方針を受け、梶山弘志経産相(当時)に「県民が10年にわたり積み重ねてきた復興や風評払拭の成果が水泡に帰す懸念がある」と伝える ▼小泉進次郎環境相(当時)が海洋放出の約1年前から海域モニタリングの実施を表明 ▼経産省が処理水処分で生じ得る風評被害の東電による賠償を支援する「処理水損害対応支援室」を設置

5月 ▼JA福島中央会、県漁連、県森林組合連合会、県生活協同組合連合会でつくる地産地消運動促進ふくしま協同組合協議会が処理水を海洋放出する政府方針に反対する共同声明を発表 ▼東電が原発敷地内の処理水保管タンクの総容量が満杯になる時期を2023年春ごろとの見通しを示す。海洋放出の準備に伴うタンク新設のため

7月 ▼東電は処理水処分による風評の抑制対策として、海水で薄めた処理水で魚を飼育する試験を2022年夏に開始すると発表

8月 ▼政府は関係閣僚会議で中間取りまとめとして、海洋放出に伴う当面の風評抑制策を決定。風評被害が出た場合の対策として、冷凍可能な水産物の一時買い取りのための基金創設、加工や小売など農林水産物の流通過程での公正な取引の指導、国際機関と連携した海外への情報発信強化を実施 ▼東電が海底トンネルを通じ福島第一原発から沖合約1キロの海洋に処理水を放出する計画を発表。処分で風評被害が発生した場合は統計データなどに基づき被害の発生を推認する賠償方針を示す

12月 ▼東電が放出前に処理水のトリチウム濃度を測定する「放水立坑」の掘削工事に着手。原発から沖合1キロ先までの海底トンネルの敷設に向けたボーリング調査を開始 ▼東電が安全確保協定に基づき県と大熊、双葉両町に対し実施計画の事前了解願を提出 ▼東電が原子力規制委に実施計画の審査を申請 ▼政府が海洋放出処分に伴う風評抑制や事業者支援策などの行動計画を決定。国際機関と連携した消費者や海外向けの風評抑止策などを講じるとした

 

2022年

2月 ▼IAEAの調査団が来日し、処理水の海洋放出に関する安全性を検証・評価

4月 ▼政府が全漁連に対し「関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない」とする基本姿勢を改めて伝達 ▼原子力規制委が東電の放出計画について安全性確認など実質の審議を終了

5月 ▼原子力規制委が東電の放出計画に関する審査書案を審議し、安全対策などについて「必要な措置を講じている」として了承。意見公募を開始

7月 ▼原子力規制委が放出計画の安全性に問題はないとする審査書案を審議し、計画を正式認可 ▼県原発安全確保技術検討会が、放出計画の安全性を確認したとする報告書をまとめる ▼全国知事会が処理水海洋放出方針について「国内外の理解が十分に得られている状況ではなく、新たな風評被害発生が懸念される」として、国が前面に立って万全な対策を講じるよう求める提言を全会一致でまとめる

8月 ▼県と大熊、双葉両町が海底トンネルなど放出設備の本体着工を了解すると東電に回答 ▼東電が放出設備の本格的な工事に着手 ▼政府が処理水処分に向けた行動計画を初めて改定。漁業者支援策などを追加する方針を発表

 

■2042年度完了目指す 第二原発の核燃料搬出 2027年度に1号機から

 東京電力福島第二原発1~4号機の全4基の廃炉で、東電は使用済み核燃料プールからの燃料取り出しを2027年度に1号機から始める。全基からの核燃料搬出は2042年度までの完了を目指す。

 東電が2030年度までの廃炉作業の内容を盛り込んだ実行計画を5月に公表した。1~4号機の核燃料プールには使用済みと未使用を合わせて約1万体の核燃料が残る。2027年度に1号機、2028年度には4号機で搬出を始める計画。2、3号機の取り出しは2031年度以降に着手する予定。

 東電は本格的な作業を前に、汚染状況調査を進めている。

 

■東電不祥事相次ぐ 県、継続的に改善要求

 東京電力は福島第一原発の廃炉作業でトラブルや不祥事を相次いで起こしている。県民は不信感を募らせ、信頼関係は揺らぐ。県は東電に対し、継続的に改善を求めている。

 東電は5月、福島第二原発構内の指定区域に、許可証を持たない車両が複数回にわたり出入りしていたと発表した。本来はエリアごとに許可証が必要だが、車両を運転していた協力企業社員はいずれか一方しか取得していなかった。許可証の見た目が似ており、誤解を生んだ。既に許可証の様式を改善した。

 8月には福島第一原発の協力企業作業員が警報付きポケット線量計(APD)と蛍光ガラス線量計(ガラスバッジ)を一時不携帯したことが発覚。新潟県の柏崎刈羽原発でテロ対策に必要な照明の一部が非常用電源に接続されておらず、停電時に必要な明るさを確保できない状況になっていたという事案も明らかとなった。

 

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