福島県双葉町に創作活動の拠点 劇作家で演出家の谷賢一さんが移住 12月に新作上演 福島の今を発信

 

JR常磐線双葉駅前を見つめる谷さん。演劇を通して、地域ににぎわいを呼びたいと誓う

 

2022/10/03 21:01

 

 東京電力福島第1原発の誘致から事故までの半世紀を描いた演劇作品を手掛けた劇作家で演出家の谷賢一さん(40)が、作品の舞台となった福島県双葉町に移住した。創作活動の拠点を構え、浜通りの団体と連携し、イベントやワークショップ、演劇祭の開催を目指す。第一弾として12月に新作を上演する。まちづくりが進む被災地の息吹を作品に込めるとともに、福島の今を発信していく。

 JR常磐線双葉駅の西側に整備された町営住宅に一日、引っ越した。作品の取材で何度も双葉町を訪ねた。「愛着がわき、この地が好きになった。地域に人を呼び込み、にぎわいをつくりたい」。新たな挑戦に目を輝かせる。

 日本演劇界で注目を集める劇作家は、本県にゆかりがある。母美也子さん(69)が浪江町出身で、自身も小学校入学前まで石川町で過ごした。その後、千葉県柏市で育ったが、福島は「大切なふるさと」だ。

 11年前、震災と原発事故に衝撃を受けた。父孝夫さん(73)が東電福島第1原発などで働いた技術者だったこともあり、原発に関心があった。「なぜ福島に原発ができたのか、なぜ事故は起きたのか」。創作するため、立ち入りが制限されていた双葉町に頻繁に足を運んだ。

 原発誘致から事故までの人々の苦悩や葛藤を描いた「福島三部作」は、新人作家の登竜門で「演劇界の芥川賞」といわれる「岸田国士戯曲賞」を受けた。年間最優秀作品を選ぶ「鶴屋南北戯曲賞」にも輝いた。同じ年にW受賞したのは日本演劇界で初の快挙。

 作品完成後も数カ月に1度は訪れ、復興が進む様子を確かめてきた。町の特定復興再生拠点区域(復興拠点)の解除に合わせ、移住を決意した。

 一般社団法人「福島ENGEKI BASE」を設立し、町内に稽古と宿泊ができる施設を構えたいと考えている。演劇に携わる人が集まり、福島の魅力を国内外に発信する活動拠点にしていきたいと、夢を描く。

 新作の準備を進めている。16日、双葉町産業交流センターで出演者オーディションを開く。12月の公演は、親交のある芥川賞作家柳美里さんの演劇ユニット「青春五月党」の協力を得て、南相馬市小高区で催す予定だ。

 住民がいなくなった場所に再び人が戻り、日常が始まる。帰還した住民、新天地に可能性を感じてきた移住者が出会う。「間近で見届け、物語を紡いでいく」

 

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