【官製風評 処理水海洋放出】「政府の基本方針」賠償基準が不明確 東電の一方的判断に懸念

 東京電力福島第一原発の放射性物質トリチウムを含んだ処理水の海洋放出を巡り、政府は基本方針で「方針決定に伴って生じ得る風評被害」は東電に賠償させると明記した。ただ、弁護士からは「賠償の基準が不明確」との指摘が上がっている。風評被害の起点や範囲、期間をどう算定し、原発事故そのものの風評被害や、新型コロナウイルスの影響による損益などをどう勘案するのかは不透明だ。東電の一方的な判断で被害が救済されない事態が起きないよう、首長や事業者らは政府の強い指導力を求めている。

 「風評被害は計量的に数字に表すのが難しい。被害者の負担にならないような適切な賠償を求めたい」

 浪江町の吉田数博町長は十九日、町役場を訪れた東京電力の小早川智明社長に強く念押しした。浪江町民約一万五千人による裁判外紛争解決手続き(ADR)で東電に和解案を拒否し続けられ、和解仲介が打ち切られた過去に触れ「理不尽な思いだ。誠実に対応してほしい」とくぎを刺した。

 内堀雅雄知事も政府や東電の姿勢に懸念を示す。十九日の定例記者会見で「賠償があるから損害を与えても良い、との前提でスタートするのは逆だ」と指摘した。十六日の小早川社長との会談後に内堀知事は、報道陣を前に「政府も東電も今後の賠償について地域や産業を問わずに対応するとしているが、どのように算定するのか」と疑問を呈した。その上で「具体的な方針を早期に示してもらい、政府や県、自治体、各産業の関係者と協議を重ねて賠償の形をつくることが極めて重要」との認識を示した。

 原発事故そのものによる損害賠償では、事故を起こした東電ではなく、被害者が因果関係を立証する構図となっている。政府が十八日にいわき市で開いた評議会で、県旅館ホテル生活衛生同業組合の小井戸英典理事長は「ADRでも因果関係や損害の立証は難しく、体力のない事業所は廃業せざるを得ない」と窮状を訴えた。

 東電は原発事故による賠償について(1)最後の一人まで賠償を貫徹(2)迅速かつきめ細かな賠償の徹底(3)和解仲介案の尊重-という「三つの誓い」を掲げる。だが、ADRの集団申し立てに対し、原発事故の原因者である東電が和解案を拒否する事態が続く。こうした中、海洋放出に伴う新たな風評被害を東電が適切に賠償できるのか不安視する声が出ている。南相馬市の門馬和夫市長は「国が賠償の仕組みを事前に考えるべきだ」と主張する。

 処理水の海洋放出方針で政府は「(風評被害の)立証の負担を被害者に一方的に寄せない」と明記したが、実効性は担保されていない。政府方針決定と同時に、具体的な風評対策を示すべきだったとの指摘もある。県民の賠償を巡る訴訟やADRに携わってきた鈴木雅貴弁護士(福島市)は「風評被害は長期に及び、海洋放出が起点ではない。(方針決定により)既に始まっている」としている。

 経済産業省資源エネルギー庁原子力損害対応室の担当者は「政府と東電は海洋放出方針決定に伴い生じた風評被害は、処分開始前でも賠償の対象とする」との認識を示すが、「処分方法決定前に想定される風評被害や、その対策を示すのは困難だった」とし、具体的な対策は今後、関係者の意見を踏まえて検討していくとしている。

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