【官製風評 処理水海洋放出】輸入解除、後退を危惧 政府の効果的策なく

 

 東京電力福島第一原発の処理水を海洋放出する政府の処分方針決定を巡り、国内だけでなく国外でも風評拡大が懸念される事態となっている。二十一日に開かれた自民党の会合では、中国や韓国など海外の反発の動きが報告され、議員から早期対応を求める声が上がった。日本政府は「国際社会の理解醸成」を方針に掲げるが、効果的な対策は依然として見いだせていないのが実情だ。福島県関係者は「国は海外での輸入規制解除などが後退しないよう取り組んでほしい」と訴える。

 自民党本部での外交部会などの会合は、福島第一原発の放射性物質トリチウムを含んだ処理水の処分方針についての意見交換などが非公開で行われた。

 米国のように理解を示す国がある一方、中国は安全への懸念を理由に「無責任」などと反発する。ロシアは「(日本政府からの)公式説明が不十分」と厳しく評し、太平洋諸島フォーラムは海洋放出の延期などを求めている。韓国では外相が、国際基準に適合しているならば「あえて反対しない」と発言したが、翌日に「断固反対」と態度を一転させた。「韓国の世論に応じて姿勢を転じた」との見方が識者から出ている。

 自民の外交部会長を務める佐藤正久参院議員(比例代表、福島市出身)によると、出席した議員からは「中国や韓国の反発に対する(安全性などの)日本政府の反論が弱い」との意見や、「各国への説明には経済産業省の作った資料だけでは不十分」として、国際機関と連携した情報発信を求める声が上がった。議員の一人は会合後の取材に対し、反発する各国トップの発言がそれぞれの国での風評拡大につながると指摘。「処理水処分が『外交カード』に使われてはならない」と、毅然とした対応を取る必要性を訴えた。

 佐藤部会長は会合後、「『復興と廃炉の適切な両立』という処分の目的への理解や、科学的根拠に基づいた正確な情報を各国に広めなくてはいけない」と政府の取り組み強化を求めた。

 政府は基本方針で処理水の海洋放出に当たり、「国際社会の理解醸成の徹底」を目指すとしている。今後は国際原子力機関(IAEA)と連携し、国際基準に基づく海洋放出の安全性の評価などを進める。ただ、県産品の海外輸出などへの影響が出た場合の具体的な対応策などは乏しく、県内の事業者からは「政府の真剣な姿勢が見えない」と批判の声も上がっている。

 福島県関係者は風評によって輸入規制などが再び強化される事態を危惧する。県は海外の風評払拭に向け、規制解除した全ての国に赴いて検査データを示し、県産物の安全性をアピールした。「一つ一つひもとくようにやってきた」。内堀雅雄知事は十五日の経産省への申し入れ後、多大な労力と時間をかけてきた経緯を記者団に説明し、警戒感を示した。

 県は原発事故発生後、国内外の事業者らと商談会などを通して、県産農産物の海外での取り扱いを拡大した。取扱量は二〇一二年度は二・四トンまで落ち込んだが、二〇一九年度には過去最多の約三百五トンの輸出が実現した。日本酒や加工食品なども欧米諸国で取り扱いが増えている。

 県県産品振興戦略課の担当者は「県内自治体や生産者、民間事業者は十年間、血のにじむような努力を重ねた。コロナ禍の打撃を受ける中、輸出の継続、残りの輸入規制解除の実現などに向け、国は具体的な安全情報の発信を強化すべきだ」と求めた。

■日本政府の処理水処分の基本方針決定を受けた海外の主な反応

▼米国・ブリンケン国務長官

 日本の透明性ある取り組みに感謝。日本政府と国際原子力機関(IAEA)の継続した連携を期待

▼ロシア・外務省

 深刻な懸念を表明。公式説明は不十分。他国の経済活動に障害を生み出さないことを期待

▼EU・欧州委員会

 国内的、国際的義務に完全に従った放出の安全性の確保を期待。手続きの完全な透明性確保の重要性を強調

▼韓国・大統領府報道官

 文在寅大統領が国際海洋法裁判所に暫定措置を含め提訴する案を積極的に検討するよう指示

▼中国・外交部

 「極めて無責任であり、国際公共の健康、安全および周辺国民の利益を深刻に損なう」と駐中国大使に申し入れ

▼台湾・行政院

 日本の決定に反対の立場を表明し、再考と周辺国への十分な情報提供を呼び掛け

▼北朝鮮・主要メディア(朝鮮中央通信)

 「人類の健康と安全、生活環境を甚だしく脅かす容認しがたい犯罪」とする論評を掲載

▼IAEA・グロッシー事務局長

 日本の基本方針発表を歓迎。日本が選択した処分方法は技術的に実現可能であり、国際慣行に沿うもの。海洋放出は世界各地で稼働中の原発から日常的に実施

▼太平洋諸島フォーラム・テイラー事務局長

 深く懸念。さらなる協議と独立した専門レビューを経るまでは海洋放出を延期するよう、至急要請

■不安解消へチーム設立 東電社長3市町村で方針説明 処理水放出

 東京電力福島第一原発の処理水を海洋放出する政府の方針決定を受け、東京電力の小早川智明社長は二十一日、南相馬、広野、葛尾の三市町村を訪れ、首長らに対応方針を説明した。小早川社長は住民の不安解消を図るため社内に事務、技術両部門の社員でつくるチームを設け、情報発信に取り組むことを明らかにした。

 広野町では、東電の情報公開の遅れや海洋放出への住民の不安などを踏まえ、遠藤智町長が小早川社長に確実な情報開示を求めた。小早川社長は面会後、報道陣の取材に応じ、「災害時などの情報発信について地元と約束事をしておくことが重要だ。一つの実働部隊として技術方と事務方が混成のチームをつくる必要がある」と述べ、今後人選を進める考えを示した。

 南相馬市では、門馬和夫市長が小早川社長に、廃炉作業の事故やトラブル防止の徹底などを求める要求書を手渡した。葛尾村では篠木弘村長と面会した。

■海外販路どうなる 県産品に風評上乗せ 県内の果樹農家に危機感

 東京電力福島第一原発の処理水を海洋放出する政府の方針決定を受け、海外に農産物などを輸出している県内の農家らに不安が広がっている。原発事故の発生後、多くの国と販路が断たれた。地道な放射性物質検査やおいしさの発信が功を奏し、徐々に信頼と評価を回復してきた。「これまで通り売れるのか…」。関係者は危機感を抱く。

 いわき市の沼倉克美さん(47)は、同市特産の「サンシャインいわき梨」をJA福島さくらを通じてベトナムに出荷している。「海外は国内以上に正確な情報が伝わりにくい」と市場の反応に不安を募らせている。

 約百アールの果樹園で幸水や豊水などの品種を年間約二十五トン栽培している。ベトナムへの輸出は二〇一七(平成二十九)年に始めた。例年、二~三トンを送り出している。高い糖度とみずみずしさが魅力で、現地の富裕層から人気を集めており、日本より高値で扱われている。

 原発事故により、国内で買い控えや値崩れが起きた。徐々に事故前の状況に戻っているが、いまだに敬遠している消費者もいる。海外への流通は、減少した収益を補う重要な販路として注目している。

 収穫量を増やすため、接ぎ木を利用した新たな栽培法に挑戦している。市内の生産者と勉強会を立ち上げる予定だ。「政府が風評対策を徹底しなければ、廃業するナシ農家が現れかねない」と訴える。

 JA福島さくらは出荷者全員に対し品種ごとにモニタリング検査を実施し、安全性の確保に努めている。処理水が海洋放出されれば、海外からの県産品に対する風当たりは強くなりかねない。関係者は「今後も安全性をPRし続けるしかない」と語る。

 「県産品に対する風評が上乗せされてしまう」。会津若松市門田町で会津身不知柿を生産する渋川吉美さん(72)は先行きを危惧する。海外に販路を広げようと、二〇一七年にグローバルGAPを取得した。今回の政府の方針決定は痛手に感じる。「海外の人に届けることができるのは遠い未来になりそう」とため息をついた。

■蔵元、消費者の反応懸念

 県産日本酒は海外の鑑評会で上位に入るなど、復興のけん引役となっている。酒造関係者は海外消費者の反応に神経をとがらせる。

 「福島の酒が安全だということを海外の関係者は分かっている。ただ、気にする人もいる。日本に近い国ほど敏感だ」。二本松市の奥の松酒造社長の遊佐丈治さん(57)は二十一日、倉庫で出荷を待つ日本酒を見つめつぶやいた。

 二十年ほど前から日本酒の輸出に力を入れている。原発事故の後、根強い風評にさらされ、輸出量が大きく落ち込んだ。それでも、放射性物質検査などを経ながら台湾、香港、シンガポール、オーストラリア、北米、欧州など各地で販売を伸ばしている。

 県によると、日本酒など県産酒の海外への輸出量は、統計を開始した二〇一二(平成二十四)年度は九万二千五百三十リットル、輸出額は九千四百十万円だった。二〇一九年度は輸出量が三十六万三千五百六十リットル、金額は四億八千二百五十四万円にまで増加した。遊佐さんは「処理水の問題がクローズアップされることで福島県産品全体がボイコットされるなど何がしかの困難が起きるのではないか」と懸念し、適切な対応を講じるよう国に求めている。

関連記事

ページ上部へ戻る