故人の服を帽子に作り替え家族に 川俣の服飾ブランド「L'ANIT(ラニット)」

 

 福島県川俣町の服飾ブランド「L'ANIT(ラニット)」代表の高橋彩水(あやみ)さん(37)は、故人が愛用していた服を帽子などに作り替えて家族に届ける「天上(てんじょう)のニットプロジェクト」を今夏、本格始動させた。思い出が詰まった衣類から取り出した糸と自作の飾り糸を編み合わせ、世界に一つだけの作品を生み出す。大切な人と人とをニットでつなぎたい-。若きデザイナーは前を見据える。

 高橋さんは川俣町出身。大学卒業後、都内の服飾メーカーに就職した。仕事を通じ、伊達地方で連綿と続くニットや絹織物産業の魅力を改めて感じた。古里で技術を学びたいとの思いを強くし、2011(平成23)年2月に帰郷した。

 翌3月、東日本大震災と東京電力福島第一原発事故が起きた。転職先となる伊達市のニット工場には4月から勤務できた。ただ、海外製品との価格競争を強いられてきたニット業界は、原発事故の風評でさらなる打撃を受けた。「地場産業の技術を守り継がなければ」。一念発起して工場を退職。デザイン関係の専門学校に通い直し、2015年にラニットを設立した。

 ブランドの方針に掲げた「大切な人同士をつなぐ」を形にしようと2020(令和2)年、プロジェクトに着手した。故人の服を受け付け、帽子やカバン、ネックウォーマーにリメークする。

 おばあちゃんの手編みのセーター、母が着ていたウエディングドレス…。依頼を受ける際、服に込められた一つ一つの思い出に耳を傾ける。手作業で糸をほどき、イメージに合うように色鮮やかな飾り糸と編んでいく。

 素材選びからデザイン、製作までの工程をほぼ1人で手掛けるため、完成まで1年ほど掛かる場合もある。それでも、依頼者が故人のぬくもりを感じながら作品を身に付ける姿を目にすると、充実感に包まれる。

 受け付けは夏の約2カ月に限っている。ブランドのイメージフラワーで、夏の高地でわずかな期間しか咲かないブルーポピーにちなんだ。今年は6月15日から7月末までとしている。高橋さんは「川俣を知ってもらうきっかけを作り、地場産業を盛り上げていきたい」と言葉に力を込めた。

 問い合わせはラニットへ。

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