【かすむ復興五輪(下)】風評解消へ戦略練り直し 県、国内外に情報再発信
東京五輪野球・ソフトボール競技の福島県開催は、国内外から来県する観客や観光客に本県の今を直接見てもらう好機となるはずだった。新型コロナウイルス感染再拡大によって福島県営あづま球場(福島県福島市)の無観客開催が決まり、当てが外れた格好だ。東京電力福島第一原発事故による風評は根強く、14の国・地域で県産品の輸入規制が続く。関係者は風化防止と風評解消に向けた戦略の練り直しを迫られている。
昨年3月、当時、五輪相だった橋本聖子大会組織委員会長は福島民報社のインタビューに「(被災地に)自信と誇りを取り戻す」と強調した。聖火リレーや野球・ソフトボール観戦を機に国内外から多くの来県があると見込まれていたからだ。各国からの支援に感謝を伝え、復興を直接感じ取ってもらい、世界で共有するのが「復興五輪」の狙いだった。
「被災地の姿を多くの人に見てもらうことを期待していたが、復興を発信する機会が失われた」。富岡町観光協会の横須賀幸一事務局長は、聖火リレーだけでは復興の現状と課題は伝わり切らないと残念がる。
あづま球場では14日、21日のソフトボール競技開幕戦の準備が進められていた。県は球場前に福島明成高の生徒が育てた花の花壇をつくり、英語表記の看板を設置した。ドイツや米国などの海外メディアからの取材が増えていると言い、来県する外国人記者を通じて何とか本県の今を世界中に発信したいと苦心する。
あづま球場での試合に合わせた駐日大使らの招待中止も痛手となった。大使らは東日本大震災・原子力災害伝承館(双葉町)などを視察する予定だった。大使の高い発信力で、本県の正確な情報を各国に伝えてもらえると期待されていた。
渡航制限などで海外からの来館者は見込めない状況が続くが、小林孝副館長は「展示内容の充実に努め、自由に往来できるようになった時に万全な体制で迎えたい」とコロナ後を見据える。
海外観光客は受け入れ見送りとなったが、県は、国内の観戦者が県内観光の一環として伝承館や被災地を訪れることを想定していた。高まりつつあった本県への関心が維持されるよう、県外への働き掛けを強める。
福島市飯坂町の穴原温泉・吉川屋は駐日大使を含め観戦ツアー客ら約200人の宿泊予約があったが全てキャンセルとなった。おかみの畠ひで子さんは「世界的な感染を考えると仕方ないが、福島の復興状況を直接見てほしかった」と話す。県産食材をふんだんに使った食事を提供できれば、食材の品質の高さと安全性を納得してもらえたはずだった。
宿泊業だけでなく取引業者を含め厳しい経営状況が続いている。畠さんは「コロナの早期収束を願いながら、今後も観光客らに県産食材の魅力を発信していきたい」と言葉に力を込める。
大会理念の「復興五輪」がかすむ中、県内関係者はレガシー(遺産)の在り方を模索している。