「大好きな場所で」カウンターに立つ 解体予定の福島県大熊町図書館で勤務していた2人がボランティア

 

原発事故後初めてカウンターに立ち、来館者の対応に当たった(左から)川村さん、春原さん=21日午後

 

2022/06/23 09:45

 

 22日まで一般開放した福島県大熊町図書館に、開館から東日本大震災、東京電力福島第一原発事故発生当日まで勤務していた職員2人がボランティアとして駆け付けた。川村明子さん(71)と春原恭子さん(71)。まちのシンボルの最後を見届けようと、約11年3カ月ぶりにカウンターに立った。「大好きな場所で最後に町民と接することができて良かった」。「読書のまち」を掲げる町の図書館を支えた2人に笑顔が広がった。

 「大きくなったね」「今は何しているの?」。来館者が詰めかけた21日。自然と会話が弾み、懐かしさがこみ上げる。多くの町民との久々の再会を喜んだ。春原さんは「あんなに小さかった子が立派な大人になっている」と月日の流れを実感した。川村さんは「いろいろな方々とまた会えて本当にうれしい」と感慨に浸った。

 1996(平成8)年の開館から職員として働いていた。「本が大好き」と口をそろえる図書館の「名物職員」だ。気さくな会話で周囲を明るくし、住民からの人気を集めた。しかし、原発事故で図書館は休館。現在、川村さんはいわき市、春原さんは東京都で避難生活を送る。

 原発事故から11年余りが経過しても町図書館への思いは消えなかった。「最後のお別れを」と節目に立ち会おうために避難先から来館。原発事故後初めてカウンターに立ち、譲り渡す本の冊数を数えたり、袋詰めをしたりするなど対応に当たった。原発事故前を思い出す町民たちとの間に笑みがこぼれた。

 県内の町立図書館で最大規模となる蔵書数13万冊以上を誇った町の名所は、年内にも解体される。川村さんは「寂しい。ずっと残してほしかった」と素直な思いを明かす。町は代替施設として図書館などを備えた社会複合施設の整備を検討する。春原さんは「図書館はみんなが大好きだった場所。(新たな施設も)町民にずっと愛される場所になってほしい」と願いを込めた。

 

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