12年ぶり騎馬武者行列復活 国重要無形民俗文化財「相馬野馬追」 町内の諏訪神社で安全祈願
12年ぶりに復活する騎馬武者行列に向け、決意を新たにする小野田さん(右)。左は島副町長
2022/07/13 09:35
23日から始まる国重要無形民俗文化財「相馬野馬追」で、大熊町騎馬会は町内での騎馬武者行列を12年ぶりに復活させる。東日本大震災と東京電力福島第一原発事故発生後、騎馬武者が古里に初めて凱旋(がいせん)し、復興が進む地域に勇ましい馬の足音が響き渡る。12日、会長の小野田淳さん(47)=いわき市に避難=らが町内の諏訪神社で安全を祈願し、町民に勇姿を届ける誓いを新たにした。
「帰還した町民に少しでも野馬追の伝統を感じてもらう」。小野田さんは決意を胸に安全祈願祭に臨んだ。初陣を飾る島和広副町長とともに玉串をささげ、本番に向けて表情を引き締めた。
小野田さんは大熊町で生まれた。町騎馬会の発足に携わった父俊秀さん=享年(61)=の背中を追い、6歳で初陣を飾った。今年で出場24回を数える。「1年で一番楽しみで、最も緊張する日」と出陣を毎年のように心待ちにしてきた。古里の住民が喜んで騎馬武者を歓迎する時の笑顔が大好きだった。
原発事故でその笑顔を見ることはできなくなった。全町避難によって町内に取り残された愛馬も失った。「もう出場することはないかもしれない」。引退が頭をよぎった。
2018(平成30)年、小野田さんに顔を寄せてくる愛馬が夢枕に現れた。「もう一度、他の馬で出なよと言ってくれている」と再出場を決意。大熊町騎馬会が所属する標葉(しねは)郷騎馬会が本陣の浪江町で凱旋行列を再開させたこの年から、再び勇ましい姿を見せ、古里での行列復活を夢見てきた。
大熊町は大川原地区や特定復興再生拠点区域の避難指示が解除され、少しずつ町民が帰還を始めている。騎馬武者の勇姿を披露することで、生活再建に励む住民に勇気や希望を与えられると信じている。
「震災前のようににぎわう行列にはならないかもしれない。それでも、大熊の野馬追を発信し、少しでも住民の笑顔につなげたい」。今は亡き愛馬に誓い、いざ出陣の時を待つ。