<避難生活と社会基盤、賠償>避難者3万231人 最多時の18%、減少続く【震災・原発事故11年6カ月 福島県】
2022/09/11 17:31
グラフ(1)・(2)
【表】県民健康調査甲状腺検査の結果
【グラフ・表】
【表】
東日本大震災と東京電力福島第一原発事故に伴う県内外への避難者数は4月現在、3万231人で前年7月の3万4988人から4757人減少した。避難者数は減少傾向が続いており、最も多かった2012(平成24)年5月の16万4865人の約18%となった。
県がまとめた県内外の避難者数と仮設住宅の入居者数の推移は【グラフ(1)・(2)】の通り。4月現在の避難者の内訳は県内が6549人、県外が2万3677人、避難先不明者が5人。県外避難者は46都道府県におり、茨城県が2626人で最も多い。宮城県が2573人、東京都が2431人と続いている。施設別で見ると公営住宅や仮設住宅、民間賃貸住宅などへの避難者が1万412人、親族や知人宅に身を寄せている人は1万3127人、病院などは138人だった。県内の仮設住宅には8月現在、郡山市で3戸4人が入居している。
県はアパートなどの借り上げ住宅や仮設住宅について、大熊、双葉両町からの避難者への無償提供を2024(令和6)年3月末まで1年延長した。特定復興再生拠点区域(復興拠点)の避難指示解除で居住可能となったが、住まいを確保するのに時間を要する避難者もいるという事情を考慮した。
■県、初の意識調査 2023年度 甲状腺検査対象者向け
東京電力福島第一原発事故による健康への影響を調べる県民健康調査のうち、甲状腺検査は五巡目が続いている。県は六巡目が始まる2023(令和5)年度、検査の対象者やその保護者向けに、検査に関するアンケートを初めて実施する。検査のメリット・デメリットに関する認知度、検査に対する認識などを把握し、検査の在り方を検討する上での参考材料とする。
甲状腺検査は学校の授業時間に行われる場合が多く、希望しない人も受けてしまう可能性があるとの指摘が出ている。一方、学校を会場とすることが受検しやすさにつながっているとの声もあり、県民健康調査検討委員会が検査の在り方を協議している。検査開始から11年が経過し、学校を卒業して親元を離れて暮らす人も増えている。こうした人が受検しやすい環境をどう構築するかも課題だ。
3月末時点の甲状腺検査の結果は【表】の通り。1~5巡目の検査と25歳時の節目検査を合わせると、がんの確定は236人、がんの疑いは47人となっている。五巡目の検査期間は新型コロナウイルス感染拡大の影響で、当初の2年間から3年間に延長している。
検討委甲状腺検査評価部会は2021年6月、三巡目の結果について「甲状腺がん発見率と推定被ばく線量との有意な関連は認められない」との解析結果を示した。評価部会は今後、四巡目も含めた解析を進める方針。
■関連死2333人 前年比12人増 5月12日現在
震災と原発事故に伴う避難の影響で体調を崩すなどして死亡し、「関連死」と認定された県内の死者は5月12日現在、2333人で、前年同期の2321人から12人増えた。長期避難による心労などが被災者を苦しめている現状が浮かぶ。
県内の関連死は県の集計上、2013(平成25)年12月に地震や津波による直接死を上回った。今年5月時点で(1)直接死(2)関連死(3)遺体は見つかっていないが、死亡届が出された人-を合わせた全死者数4164人の56%を占める。
市町村ごとの直接死と関連死の現状は【グラフ・表】の通り。関連死は南相馬市が520人で最も多く、富岡町が454人、浪江町が442人。避難指示が出るなどした12市町村(双葉郡8町村、南相馬市、田村市、川俣町、飯舘村)で2121人となり、全体の90・9%に上る。
地震や津波による直接死の死者数は1605人で、全死者数に占める割合は38・5%。南相馬市が最多の525人、相馬市が439人、いわき市が293人で続いている。
厚生労働省によると、震災に関連する県内の自殺者は今年7月末現在、累計で119人に上る。岩手県の56人、宮城県の62人の約2倍で被災3県の中で突出している。福島県の119人のうち、男性は72人、女性は47人。年代別では50代が29人と最も多い。
■国の責任 最高裁認めず 原発賠償4訴訟 初の統一判断
東京電力福島第一原発事故の避難者らが国と東電に損害賠償を求めた福島(生業=なりわい=)など4件の集団訴訟の上告審で、最高裁第二小法廷(菅野博之裁判長)は6月、国の賠償責任を認めない判決を言い渡した。事故を巡る国の法的責任を最高裁が判断するのは初めてで、後続の関連訴訟に影響を与えるのは必至だ。
判決は東日本大震災の地震と津波は想定よりはるかに大規模だったと指摘、国の規制権限の不行使と事故の因果関係を否定した。
原発事故避難者らによる同種訴訟は全国に約30ある。各地の裁判所が示した判断は【表】の通り。全てで東電の責任が認められ、二審の7件は国の賠償基準「中間指針」を上回る賠償を東電に命じる判決が確定した。
係争中の同種訴訟は主な争点が4件と共通し、一般に下級審は最高裁判例に拘束される。原告側の各弁護団は国の責任を認める判決を得ようと戦略の練り直しを進めている。
一部の弁護団は国策で原発を推進した国の「作為」の違法性の追及や、最高裁が判断を明示しなかった津波の予見可能性の立証に力を入れる方針を示す。第二小法廷の裁判官4人のうち唯一、国の違法性と賠償責任を認めた三浦守裁判官の反対意見などを援用し、反論を試みる。
■株主代表訴訟 旧経営陣に賠償命令 元会長ら4人に13兆円
東京電力福島第一原発事故を巡り、津波対策を怠り会社に損害を与えたとして、東電の株主48人が旧経営陣5人に対し総額約22兆円を東電に支払うよう求めた株主代表訴訟で、東京地裁(朝倉佳秀裁判長)は7月、勝俣恒久元会長ら4人に計13兆3210億円の支払いを命じる判決を言い渡した。旧経営陣個人の賠償責任を認める初の司法判断が示された。
訴訟は地震予測「長期評価」の信頼性や巨大津波の予見可能性、東電の安全対策などが主な争点だった。朝倉裁判長は津波対策を取れば「事故を防げた可能性は十分あった」とし、最低限の対策を速やかに指示すべきだったが注意義務を怠ったと判断した。
5人は勝俣氏と清水正孝元社長、武黒一郎元副社長、武藤栄元副社長、小森明生元常務で、小森氏を除く4人に賠償を命じた。
旧経営陣4人と株主側の双方が判決を不服として控訴している。
■東電旧経営陣強制起訴控訴審 2023年1月18日判決
東京電力福島第一原発事故を巡り、業務上過失致死傷罪で強制起訴され、一審で無罪となった東電の勝俣恒久元会長(82)ら旧経営陣3被告の控訴審は6月に結審した。来年1月18日に判決が言い渡される。
被告は勝俣元会長の他、武黒一郎元副社長(76)、武藤栄元副社長(72)。第一原発への津波襲来を予見できたか、東電の安全対策が適切だったかなどが主な争点で、旧経営陣の刑事責任の有無が改めて判断される。
3被告は第一原発に津波が押し寄せるのを予見できたのに対策を怠った結果、震災による津波で原発事故を招き、双葉病院(大熊町)の入院患者ら44人に避難を強いて死亡させたなどとして強制起訴された。
■ふくしま復興再生道路供用率58.6% 12工区、2020年代前半完成へ
県は中通りと浜通りを結ぶ国道と県道の計8路線を「ふくしま復興再生道路」と位置付け、道路のバイパス化や拡幅工事を進めている。全29工区のうち、2022(令和4)年度は大熊町の288号国道野上小塚工区、川俣町の349号国道大綱木1工区の供用を始めた。供用率は58・6%となっている。残りの12工区について、県は2020年代前半までの完成を目指す。
288号国道野上小塚工区は2・1キロで、7月に開通した。双葉郡と県中地方を結ぶ。349号国道大綱木1工区は2・0キロで、8月に供用を開始した。いずれも急カーブや急勾配などを解消した。
この他、いわき市と川内村を結ぶ399号国道十文字工区(6・2キロ)が今月17日に開通を予定している。川内村からの救急搬送時間の短縮などを実現する。
8路線の開通により、東京電力福島第一原発事故で避難区域が設定された地域の交通網が充実する。広域的な物流の環境が整い、地域産業の活性化をもたらすと期待される。