「福島県相双地区在住者の被爆体験を伝え継ぐ」体験談集 山崎健一さん 出版から40年を経て再び脚光
被爆体験談集を手にする山崎さん
2022/10/13 11:20
復刻出版された被爆体験談集
元高校社会科教諭の山崎健一さん(76)=福島市=が40年前に書き上げた相双地区在住者の被爆体験談集が今、再び脚光を浴びる。ロシアによるウクライナ侵攻で改めて核兵器廃絶の機運が高まる中、壮絶な実体験に基づいた真実の言葉が人々の心に響く。南相馬市博物館は22日から体験談集を基にした企画展を開き、福島から平和な世界の実現を訴えていく。
山崎さんは1982(昭和57)年から1年間かけて、相双地区に住んでいる20人から話を聞き取り、翌1983年夏に被爆体験談集「私も証言する-ヒロシマ・ナガサキのこと-」を出版した。
「意識を失った私を誰かが川原に運んでくれた」「手を握ったまま亡くなった校友のこと」…。20人の証言が記され、「踏切で止められて助かった」当時を描いた絵などが収録されている。
原町市(現南相馬市)の高校教員が中心になって設立した会の事務局を務めたのがきっかけだった。会の活動の中で、自分の住む地域に被爆者がいることを知った。「なぜ遠く離れた地にいるのか」と疑問に思い、少ない情報を頼りに対象者を探し歩いた。
取材は困難だった。土日を利用し、兵隊として広島県や長崎県に出兵していたり、両県から相双地区に移住したりした人を訪ねた。訪問に戸惑う人、家族に被爆の事実を伏せていた人もいた。あきらめず何度も通い、信頼を得て、少しずつ話が聞けるようになった。
情報も集まりだし、20人から証言を得た。数人には被爆直後の絵を描いてもらった。1954年の第五福竜丸事件を取材した新聞記者からも話が聞けた。
計4千部を発行した。当時、大きな反響があり、米国国立公文書館からも問い合わせがあった。半数を販売し、半数を全国の図書館や学校に寄贈し、事務局には1冊も残っていなかった。
6月、山崎さんに突然、南相馬市博物館の堀耕平館長から電話があった。今こそ、戦争の悲惨さや愚かさ、平和の尊さを伝える企画展を開催したい-との依頼だった。
山崎さんは驚いたが、快諾した。書籍の復刻を決め、200冊を出版した。「40年前、被爆の企画展はできなかった。戦後77年が過ぎ、戦争の記憶の風化が指摘されて久しい。ロシアの蛮行により再び、この冊子が必要とされているのかな」と話す。
希望する人に1冊千円(税込み)で販売し、売り上げの一部をウクライナの義援金に充てる。
■22日から南相馬で企画展 被爆者20人の状況紹介
企画展「相双地方の被爆体験を伝え継ぐ-証言 ヒロシマ・ナガサキのこと-」は22日から12月11日まで。
相双地区の被爆者20人の被災状況を紹介するパネルや体験者が描いた絵を展示する。
10月30日には、平和学習講座を開く。広島平和記念資料館派遣講師の西村宏子さんが「ヒロシマから未来へ核兵器のない平和な世界を目指して」と題して講演する。
企画展の入館料は一般400円、高校生200円、小・中学生100円。