同窓生つなぐ賛歌 双葉高創立100年で記念制作 母校愛歌い継ぐ 作詞、志賀泉さん 作曲、渡辺俊美さん
志賀泉さん
2022/12/11 09:59
渡辺俊美さん
東日本大震災と東京電力福島第1原発事故で休校となっている双葉高の創立100年記念賛歌「百年の樹」が完成した。同窓生で福島県南相馬市小高区出身の作家志賀泉さん(62)=1979(昭和54)年卒、川崎市=が作詞し、川内村生まれ・富岡町育ちのミュージシャン渡辺俊美さん(56)=1985年卒、東京都町田市=が作曲した。各界で活躍する同窓生は新たな曲を歌い継ぎ、未来へ絆を強めていく。
同窓会は創立百年記念事業実行委員会を設立し、来年10月8日に双葉町産業交流センターで予定している記念式典の準備を進めている。同窓会長で記念事業実行委員長の松本貞男さん(75)=1966年卒、郡山市=が「卒業生をつなぐ記念賛歌を作ろう」と提案した。
作詞を手がけた志賀さんは2004(平成16)年に「指の音楽」で太宰治賞を受け、震災と原発事故前後の古里を題材にした小説「百年の孤舟」を出版した。作詞にあたり、生徒会長として臨んだ文化祭「双樹祭」を思い出した。「双樹」には、高校生活にとどまらず、一生を貫く崇高な成長の意志が込められていた。震災後も母校の敷地内で成長し続ける大樹と、復興が進む古里を重ね合わせ、言葉をつむいだ。
双葉高は卒業生だけではなく、双葉町民の誇りでもある。校舎の保存と有効活用を願い、「『百年の樹』が校舎保存運動のきっかけになってほしい」と希望を託す。
作曲は音楽界で活躍している同窓生の渡辺さんに頼んだ。渡辺さんは震災後、古里の川内村や富岡町など双葉郡をはじめ、県内各地の復興イベントに出演してきた。時間を見つけては母校に足を運び、青春の一ページを懐かしむ。作曲の依頼を受け、「心からうれしかった。志賀さんの歌詞が届いたとき、心が熱くなった」と振り返る。
高齢になった卒業生から、震災当時に在籍していた生徒まで幅広い世代の同窓生がともに歌える曲を目指した。今後の福島の復興と新たな景色を思い描き、母校への愛を音符に込めた。「百年の樹のように色あせないためにも、この曲を死ぬまで歌い続ける」と誓う。
松本さんは「すばらしい校歌や応援歌とともに、この賛歌が古里と母校への思いを深める歌として、同窓生たちに歌い継いでもらいたい」と願う。曲を収めたCDが完成し、式典や会合、双葉高ゆかりの集まりで歌を披露していく予定。
原発事故により各地に避難する同窓生は、歌を通してつながり続ける。
■百年の樹
◆1番◆
百年前に 芽生えた樹 おさない 双葉が 風に揺れた
戦争があった 震災があった すべてを樹は見ていた
かなしみが わたしを強くする くるしみを 生きる力に
わたしは 負けないと その樹に約束しよう
その樹の名は双葉 百年たっても双葉
沈黙の校舎に 我が名を刻め あなたの教えは 人生をつらぬく
◆2番◆
百年の樹を 見上げれば わたしの 想いは 時を超える
恋をした わかれもあった すべてを樹は見ていた
なにひとつ 無駄なことはない 枝や葉が 折れちぎれても
いのちを 燃やせよと その樹は語りかける
その樹の名は双葉 百年たっても双葉
かなしみの校舎に 力を与え わたしの闘いの はげみに変えよう
◆3番◆
百年前に 生まれた樹 宇宙に 広がれ 愛で覆え
泣き叫び 空仰いでも いつでも樹は立っている
田んぼ道 海へ続く道 土手の道 丘の坂道
放課後 走った道 わたしの心の道
その樹の名は双葉 百年たっても双葉
永遠の校舎の いのちを信じ わたしは生きていく あなたに誓おう
双葉高 1923(大正12)年に旧制の県立双葉中として開校した。質実剛健・終始一貫の校訓のもと、約1万7600人の卒業生を輩出してきた。野球部は1973年、1980年、1994年に甲子園に出場した。原発事故により避難を強いられ、生徒数の大幅な減少のため、2015(平成27)年度、生徒募集を停止。2017年3月に休校し、現在も続いている。