少子化を生きる ふくしまの未来 第2部「双葉郡の若者」(3) 単身者の思い(上) 限られる「出会い」
浪江町にあったショッピングセンター「サンプラザ」跡地。かつては地域の若者たちが青春を過ごした
2025/02/04 10:54
東京電力福島第1原発事故に伴い、少子化が急速に進んだ福島県双葉郡の各町村は婚活支援事業に力を入れている。結婚をする、しないを決める「当事者」に当たる未婚の単身者は将来をどのように考え、日々を過ごしているのか。
双葉町の自営業伊藤拓未さん(35)は町内中野地区で小売店「伊藤物産」を構えている。「いずれは地元で結婚して子どもを持ちたい」と思い描いている。
仕事柄、性別を問わずに同年代と日常生活で接する機会は限られる。復興に関わる若者が集まる会合などで顔を合わせる程度だ。
町と町民の有志でつくる「後継者結婚対策協議会」が企画する男女の出会いの場に誘われることもあるが、「世間が狭い。知り合いに会うと気まずい」とそれとなく断っている。「父親からは『いつ身を固めるんだ』と会うたび、言われる」と苦笑いする。
祖父の代から続く工務店の家に生まれた。双葉中から双葉高に進み、中学・高校時代を含めて古里の町で育った。震災当時は神奈川県で大学生活を送っていたが、商社勤めを経て「地域を活性化させたい」と地元に戻った。
東京電力福島第1原発事故の発生後、町の小売業としては初となる店を2020(令和2)年8月に開けた。町内には住めず、広野町から通いながら復興に従事する作業員向けに工具や資材を扱った。帰還の動きを見据え、次第に品ぞろえを日用品などに広げた。避難指示解除に伴い、3年後に町内に住まいを戻した。
しかし、かつての同級生や学年の近い先輩、後輩を見渡しても、双葉郡で暮らしている人は「両手で数えられるほど」しかいない。
福島第1原発が立地する双葉町でも避難指示の解除が段階的に進んできた。それでも、居住できる地域は全面積の15%にとどまる。町によると昨年12月末現在、町内の居住者は182人で住民登録者数5294人の約3%に過ぎず、飛躍的な増加は見通せない。
伊藤さんが結婚する機会を得て、子どもに恵まれた未来を想像した場合、気がかりなのは郡内の生活環境が今後、どの程度整っていくかだ。
幼児が体調を崩した際に駆け込める小児科医や、食べ物や飲み物、時間を気にせずに求められる24時間営業のコンビニは町内にはない。自分たちが中高生時代に「たまり場」としていた浪江町のショッピングセンター「サンプラザ」のような集客施設やレストランなど、若者が集まり、青春を過ごす場も見当たらない。
伊藤さんは双葉郡で暮らしている若者が、この地で家庭を築く未来をより前向きに考えるためには「『子どもが生まれ、育っていく地域にはどんな機能が必要なのか』という視点を復興施策に取り入れるべきではないか」と考えている。