古里に生きた証しを 避難先で亡くなった住民ら 名前刻んだ石碑設置 福島県大熊町長者原地区 行政区長の山口さん

 

大熊町長者原地区に石碑を建てた山口さん。「住民の絆をつなぐ場にしたい」と望む

 

2025/03/05 10:43

 

 福島県大熊町長者原地区に東京電力福島第1原発事故に伴う避難先で亡くなった住民らの名前を記した石碑が完成した。帰還がかなわなかった住民の名前だけでも古里に帰そうと行政区長の山口三四(みつよし)さん(80)が新設した。周辺には草花を植栽し、広場の整備を進めている。地区は現在も帰還困難区域に指定され、大部分は中間貯蔵施設の用地となった。「離れ離れになった住民の絆をつなぐ場にしたい」と作業に励む。

 

 「東日本大震災に続く原発事故は、住民の未来を大きく狂わせた」「慣れない避難生活の中で故郷に帰るという希望も絶たれ、無念にも亡くなられた方々…。せめてお名前だけでも長者原の地に帰してあげたい」

 石碑には山口さんが考えた強い思いが記されている。「ここで生きた証しを伝えたい」と遺族の許可を得て避難先で亡くなった地区住民ら44人の名前を入れた。

 長者原地区は現在も帰還困難区域のままだが、除染が進み一部は一時的な立ち入りが許可されている。2023(令和5)年11月には地区内の塞(さい)神社で13年ぶりに伝統のじゃんがら念仏踊りが披露された。県内外から住民が駆け付け、再会を喜ぶ一方、山口さんは「避難先で亡くなり、この場所に来ることができなかった人たちがいる」と複雑な思いを抱いた。「名前だけでも残したい」と石碑の建立を決意した。

 知人が所有する神社近くの敷地に整備を決め、翌月から作業を始めた。雑草を刈り取り、左官業を営んでいた経験を生かし、重機を運転してコンクリートを舗装した。避難生活を送るいわき市から片道約1時間の道のりを運転し、ほぼ毎日、1人で作業を重ねた。

 2月末に石碑が完成。2種類を建て、もう一つには震災発生当時の世帯主の名前が入った地区の地図を刻んだ。古里で会う機会がほとんどなくなった住民が石碑を眺めるために地区を訪れ、思い出話に花を咲かせてほしいと願いを込めた。

 石碑の周りにはサクラやモモの花の木を植え始めた。100本超を植栽し、数年後に花が咲き誇る広場になるのを思い描く。山口さんは「古里が少しでも明るくなればうれしい」と望む。

 

関連記事

ページ上部へ戻る