青春18きっぷで行く、浜通りラーメン数珠つなぎ①/③
福島県浜通りのお宝ラーメンを求めて!
港町には旨いラーメン屋ができるらしい。
海から吹き付ける冷たい風に耐えるため、体を温めるラーメンが自然と根付くのだろう。
港で働く人が多く出入りして、水揚げされる特産物が使われたりと、ガラパゴス的な進化がおきる可能性が高い。
きっと海沿いには、まだ見ぬお宝ラーメンが眠っているはず!
福島県の太平洋沿岸を走る常磐線で、1泊2日のラーメン旅に出かけることにした。
常磐線を途中下車しながら海沿いを進むため、まずは“青春18きっぷ”を購入。
指定期間中、JRの区画内であれば乗り放題、降り放題というラーメン旅にはうってつけの乗車券。春、夏、冬の年3回発売されて、税込み12050円で5日分だ。複数人で利用することもできる。
スタート地点に選んだのは、福島県いわき市の南に位置する「泉駅」。
1泊2日のラーメン旅をするにあたって、福島に縁のある知人に一番のお薦め店を聞いてきた。
それが、いわき市小名浜にある「チーナン食堂」。福島県最大の湾港「小名浜港」で1953年から続く老舗の食堂らしい。
「駅からは遠いけど、全国からラーメン好きがあつまるよ」と教えてくれた知人は、一日に7食もラーメンを食べたという逸話と鉄の胃袋を持つ男。
彼が薦めてくれるなら、味に間違いはないはずだ。
その後に訪ねる店は決めていないが、下調べはほどほどにしておこう。せっかくの旅だ。現地の情報を頼りに進むのも悪くない。
ラーメン屋の店主や客に情報を求めれば、思わぬ発見もありそうだ。
数珠つなぎのように、福島県浜通りのラーメンを巡って行くのだ。
JR「泉駅」からバスに揺られて約20分。「イオンモール いわき」で降りてから、さらに15分ほど海沿いをてくてく歩く。
住宅がちらほらと立つ路地に「チーナン食堂」の暖簾を見つけた。
二階建ての建物の一階が食堂になっていて、いかにも地元の人に愛されている“町中華”といった佇まい。
素朴だけど、清潔で人の温もりを感じる。
「これはいい店だぞ!」と期待値がグンと上がった。
ガラガラと扉を開けると驚いた。
20席以上はありそうな店内が、満席。
オープンしてからまだ10分も経っていないというのに。
食べ終わりそうな客がちらほらといるので、おそらく開店前から並んでいたのだろう。
「少しだけ待っててもらえる?」と柔らかい笑顔をしたエプロン姿のおばちゃんが声をかけてくれる。
店内が賑やかな雰囲気なので、少しばかりの待ち時間なんて全く苦じゃない。
席が空くのを待つ間も、続々と客は訪れていた。ラフな服装の人が多かったので、おそらく近くに住んでいる客が多いのだろう。やはり、地元でも人気な店なのだ。
10分も待たずに席に着き、メニューにある“ラーメン 850円”を注文する。
まろやかな醤油の香りとともにラーメンがやってきた。
チャーシューやメンマ、海苔のほかにかまぼこも入っている。
店の佇まいと一緒で、素朴だけど人の温かみを感じる。
まずはスープをひと口。
じんわりとした甘味が広がる。豚の脂かな。コクがあるけど、全くクドさがない。鶏の香りもするので合わせ出汁なのかもしれない。
重たさやしつこさを感じさせないのに、腹からパワーが湧いてくるような力強い味わいだ。
麺はツルッとした細麺だけど、もっちりとした食感があって食べ応えがある。スープともしっかり絡んでいるので、一体感が抜群。
あぁ、家の近くにあったら通ってしまうな、という味。
「チーナン食堂」の近くに住む人たち、「小名浜港」で働く人たちが少しだけうらやましくなった。
■チーナン食堂
〈住所〉いわき市小名浜栄町66-30
〈電話番号〉0246-92-2940
〈営業時間〉11:00~18:00
〈定休日〉火曜
〈駐車場〉なし
ラーメン旅、最初の一杯はこれ以上ないほど素晴らしい走り出しだ。
知人に感謝のメールを送り、次の店に向かうため海沿いの道を戻った。
じつは、「チーナン食堂」で席が空くまでの間、2人組のおじさんにお薦めの店がないか聞いていた。
「『泉駅』の隣にある『湯本駅』に温泉でつくったラーメンを出す店がありますよ。いわき湯本温泉は日本三古泉のひとつだから、一度食べてみた方がいい」と快く教えてくれたおじさん。
どうやら麺に、温泉の源泉を使っているらしい。
一体、どんな味がするんだろう。
地元愛から生まれた温泉ラーメン。
「泉駅」から常磐線で「湯本駅」まで移動する。
ひと駅間隔の途中下車も、運賃を気にすることなくできるのが“青春18きっぷ”の魅力だ。
「湯本駅」のホームには、電車を待つためのベンチと足湯が用意されていた。さすがは温泉の町。ところどころに、源泉を生かした工夫がある。
ゆっくり浸かっていきたいところだが、今回の目的はラーメンだ。
小名浜のおじさんに聞いた「さくらかふぇ」の看板を探して、商店街を進む。
駅から3分ほど歩いたところで、「湯本温泉ラーメン」と書かれた黄色いのぼりを見つけた。木製の壁には大きな文字で「さくらかふぇ」。
コーヒーが描かれた看板も出しているので、町の人が集まるような喫茶店なのだろう。
さっそく店内に入って、“湯本温泉ラーメン 780円”を注文する。
正直に言うと、侮っていた。町おこしの一環でつくった、よくあるご当地ラーメンだと思っていたが、予想を軽く飛び越えてくる味わいだった。
スープは鶏と醤油の香りがするすっきりとした味わいで、卵は色が濃くて味も濃厚。海苔はスープに浸かってもコシがなくならない。後で聞いたら、近所の鮨屋が使っている海苔と同じものだそうだ。
温泉を使っているという麺は、軽く縮れた太麺で歯を押し返すようなもちもち感がある。
商店街のカフェで出てくるレベルとは一線を画す味わいだった。奥でラーメンをつくっていたであろう店員さんに声をかけると、20代ぐらいの女性でさらにびっくり。
「オーナーは私の母で、もともと婦人服の店を営んでいたんです。3年前ぐらいからカフェを併設して、名物料理をつくろうということでラーメンにチャレンジしたんです」と店員さんが教えてくれた。
ほかでは食べられないような味を目指して、目をつけたのが地元の代名詞でもある温泉。地元を盛り上げたいという想いに共感してくれた大勢の人が、縁を繋いでくれたり、知恵を貸してくれて完成したという。
話を聞いて「湯本温泉ラーメン」の味にも納得できた。地元を愛する人たちが一生懸命になってつくった味だ。そりゃ、適当なものを出すはずがない。人の想いを感じる味わいは、心に泌みる美味しさがあるもんだ。
■さくらかふぇ
〈住所〉いわき市常磐湯本町天王崎1−158
〈電話番号〉090-9741-6139
〈営業時間〉10:00~16:00
〈定休日〉金曜 土曜 日曜 祝日
〈駐車場〉6台
「さくらかふぇ」の人にも、お薦めの店を聞いてみた。
「“湯本温泉ラーメン”の麺を開発してくれた方がいるんです。いわきで『やま鳶』という店をやっていて、いくつも賞を受賞しているんですよ」と店員さん。
おぉ。やっぱりラーメン屋で話を聞けば、人の繋がりで情報が聞けるものだなぁ。
次の目的地は、福島県最大の人口を誇る町いわきに決定だ。
時刻は正午を過ぎている。
昼の営業が終わるまでにあと2〜3軒は周りたいところ。
足早に駅へと向かった。
70度のスープは、柔らかい口あたりと優しい醤油味。
「いわき駅」に到着して、南東の方へと向かう。
タクシーを使っても良さそうな距離だが、せっかくの旅なら町の雰囲気を感じながら進みたい。
とはいえ、営業時間のこともあるからキョロキョロしながら早歩き。周りの人から見たら、迷子になってる旅行者に見えてるんだろうな。
20分ほど歩いて「創作麺 やま鳶」という看板を発見。
店内に入ると、白と淡い色を基調にした明るい内装だ。
カウンターの奥では、30代ぐらいの男女がまめまめしく動いている。
食券機で看板メニューの“らぁ麺 800円”を注文。
やってきたラーメンは店名にある「創作麺」の名の通り、なんだかお洒落な佇まい。
まずはスープを口にすると、柔らかい口あたりと優しい醤油と複雑味のある甘味を感じた。鶏だけでなく、野菜などの出汁も合わせているのかもしれない。
カウンターの上を見ると、「スープは70度ほどにしています」とある。
出汁の旨味を一番感じやすい温度だそうだ。なるほど、最初に感じた口あたりは、温度によるところもあるんだろう。
麺はツルッとしたストレート麺で、噛むごとに小麦の味が広がる。
ラーメンの一つ一つの要素に、店主の趣向が凝らされているのを感じる。
駅から20分歩いて食べに来たかいがあったと、麺をすすりながら嬉しくなった。
■創作麺 やま鳶
〈住所〉いわき市平作町1-10-5 第1エミネンス1-AB
〈電話番号〉非公開
〈営業時間〉11:00~20:00
〈定休日〉火曜
〈駐車場〉10台
――②へとつづく。
文・写真:河野大治朗