帰還意向どう答えたら 政府手法に不満の声も 福島県大熊町・双葉町の復興拠点外調査
2022/09/11 10:36
東日本大震災と東京電力福島第一原発事故発生から11日で11年半となる中、帰還困難区域の特定復興再生拠点区域(復興拠点)外の避難指示解除に向けた政府の手法に一部住民から不満が高まっている。政府は大熊、双葉両町の拠点外の住民への帰還意向調査を開始。ただ、住民からは調査内容について「生活できる状況にないのに、意思のあるなし、保留の3択だけの聞き方では不十分だ」との声が上がり、調査を踏まえて生活圏を除染する方針の政府との温度差が浮き彫りになっている。
■「有」「無」「保留」
調査は帰還の意思を「有」「無」「保留」の3択で尋ねている。保留の場合は帰還を悩んでいる理由やどんな条件が整えば帰るかを自由記述で書く。福島民報社が対象町民計15人に回答した内容を取材した結果、10人が「保留」と答えた。
保留の理由は「調査への戸惑い」が多い。大熊町の60代男性は「3択で聞かれてもどうしたらいいか分からない」と話す。別の60代男性は「帰還できるようにするための具体的な条件を複数提示してほしい」と求める。50代男性は「どこまで除染するのか分からない状況の中では判断がつかず、答えられない」と調査の在り方を批判する。
生活圏だけの除染を不安視する住民も多い。双葉町の60代女性は「除染が一部では行動範囲が制限される。調査にどう答えるか判断が難しい」と話す。営農再開を考える同町の70代男性は「(全域除染でなければ)野菜やコメを本当に食べてもらえるのか」と風評被害も心配する。
政府方針に理解を示す声もある。大熊町の70代男性は「全く除染してもらえないよりはいい」、同町の50代女性は「一部でもすぐに除染してほしい」として帰還の意思があると答えた。
■調査繰り返す
政府は昨年8月、「地域を面的に除染して帰還を可能にする」との方針を変え、「希望者の家や周辺道路を除染して2020年代に帰還を可能にする」とした。
意向調査を踏まえ、2023(令和5)年度に除染場所を協議し、2024年度の除染開始を見込む。安全性を確認した上で、避難指示を解除する方針。解除に向けて(1)意向調査(2)除染(3)避難指示解除-を複数回繰り返していく計画だ。政府は「希望者の帰還を一刻も早く実現させるための手法。将来的には帰還困難区域全ての避難指示を解除する」としている。
■安心確保が先
本県の復興政策を研究している大阪公立大の除本理史教授(51)=環境政策論=は「除染範囲がどこまで認められるかが未知数の中で調査に答える住民は不安だろう」と話す。
帰還できる環境を整えるには生活の質を確保するのが第一だと指摘し、「除染範囲や解除時期など、住民の安全安心を確保した上で帰還意向を聞くべきではないか」と訴える。
※帰還意向調査 復興拠点外の住民に帰還の意思を尋ねる調査。大熊、双葉両町の拠点外に土地や建物を所有していた人、同居していた親族ら約1400人を対象に政府が8月に始めた。家族のうち誰が帰還するのか、帰還後は営農再開の意思があるかどうかなどを聞いている。大熊町は15日、双葉町は20日を回答期限としている。