国文化財 憩いの場に 大正の洋風建築 旧三宮堂田中医院診療所 福島県双葉町、複合施設に改修へ

 

双葉町が改修する国有形文化財の旧三宮堂田中医院診療所

 

2023/08/30 09:33

 

福島県双葉町民に親しまれてきた大正時代の洋風建築の旧診療所が、情報発信や交流スペースを備えた複合施設に生まれ変わる。町は9月、国有形文化財の旧三宮堂(きゅうさんのみやどう)田中医院診療所の改修に着手する。診療所は昨年8月に避難指示が解除された特定復興再生拠点区域(復興拠点)内にある。原発事故に伴う建物解体などで地域の風景が変わる中、かつての町の姿を伝える施設を復興のシンボルにし、町民の心のよりどころとする。2024(令和6)年度以降の完成を目指す。

 

 町によると、国有形文化財を複合施設に改修するのは珍しい。町は第3次町復興まちづくり計画で診療所がある駅東側の活性化を掲げている。町民の交流拠点や情報発信拠点が町内に少ないため、診療所を情報が集まる交流の場所として活用し、町民や双葉に関わる人々の絆を紡ぐ場にする。県内在住の所有者の許可を得た上で、国有形文化財の改修に必要な手続きを文化庁に申請し、今月に受理された。

 1階で町のイベントや各施設などの情報を提供し、移住定住に関する相談窓口の設置を想定している。子どもから高齢者までが交流するスペースも置く計画。2階は会社員らが短時間、仕事をできるコワーキングスペースなどとする案を検討している。

 診療所の敷地約640平方メートル内にある煉瓦(れんが)蔵も改修する。町は現在、活用策を検討している。敷地内に遊び場などに使える広場も整備する見込みだ。

 9月上旬にも改修を開始し、工事は必要最小限にとどめる。大震災で生じた外壁の亀裂を主に直し、備品を入れ替える。町民の記憶に刻まれた「洋館」の外観を維持し、次世代に継承していく。

 完成後は町内のまちづくり会社「ふたばプロジェクト」が運営する。町生涯学習課は「町民の笑顔や希望があふれる再生のシンボルとなるよう目指す」としている。

 診療所に思い出のある町民も改修に期待を寄せる。双葉町埼玉自治会長の吉田俊秀さん(75)は診療所の院長の娘と高校生まで同級生だった。友人とともに診療所を訪れ、消毒液の匂いやナース帽をかぶった看護師の姿が今でもよみがえる。「震災にも耐え、町の象徴のような建物だ。ぜひ後世にわたって活用していってほしい」と喜んだ。

 

※旧三宮堂田中医院診療所 1922(大正11)年ごろに建てられた木造2階建ての洋風建築。寄せ棟造りの正面に、本を開いて伏せたような屋根の形「切り妻破風(づまはふ)」、屋根の頂点に装飾物の「フィニアル」を掲げ、大正時代の雰囲気を残す。1階には診療室など、2階には床付き座敷と洋室がある。敷地内の煉瓦(れんが)蔵とともに2022(令和4)年、双葉町で初めて国の有形文化財に登録された。

 

■復興拠点避難解除1年 知事「安心して暮らせる環境に」

 双葉町の特定復興再生拠点区域(復興拠点)の避難指示が解除され、30日で1年になる。内堀雅雄知事は29日の定例記者会見で「町民が安心して暮らせる環境づくりに取り組む」と子育てや買い物環境の充実に努める考えを示した。

 内堀知事は帰還した住民に加え、移住者が増えている町内の現状を踏まえ、復興に向けて町民による新たなコミュニティーの形成に期待を寄せた。

 

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