【震災・原発事故13年】若者つなぐ 古里の「今」 双葉の新成人復興体感ツアー 思い出共有、未来語る
双葉町の夜空を彩った打ち上げ花火
2024/09/29 10:56
JR双葉駅周辺を散策し双葉町の過去と今について説明を受ける新成人
幼くして町を離れた若者に「古里の今」に触れ、同世代の絆を育んでほしい―。双葉町は28、29の両日、18~20歳の「新成人」を招いたツアーを催している。対象者は東日本大震災と東京電力福島第1原発事故が起きた当時、小学校入学前。町の記憶はほとんどない。13年半の復興の歩みを肌で感じながら同郷のつながりを深めてもらおうと企画した。県内外から集った参加者は地域への思いを強めている。
ツアーには対象とした18~20歳211人のうち、いわき市や埼玉県などから20人が参加。初日は町役場新庁舎でまちづくりの現状について説明を受けた。避難指示が解除された特定復興再生拠点区域(復興拠点)のJR双葉駅周辺を歩き、復興が進む町並みを自らの目で確かめた。東日本大震災・原子力災害伝承館も訪ね、原発事故の発生直後からの避難の経過などに理解を深めた。
「幼なじみと思い出話ができてうれしい」。福島医大看護学部1年の古和田桜華さん(18)は双葉町を離れてからは、会津若松市を経て須賀川市で暮らしている。避難後に町を訪れるのは3回目だ。町内を巡り、かつての暮らしを思い浮かべた。伝承館の見学を通じて「当時の町の皆さんの苦労を目で見て学ぶことができた」と話した。
双葉町の仲間と会うのは10年ぶりという東京都、法政大2年の新妻和樹さん(20)も旧友との再会を楽しみに参加した。懐かしい顔触れと13年間のお互いの境遇を語り合い、夜は花火大会を観覧した。古里にかつてあった田園風景や町並みを今も忘れずにいる。「地元が好きなので卒業後は双葉に戻って家を建てたい」と将来を展望していた。
ツアーを催した背景には歳月の経過につれ、薄れていく若年層と町のつながりへの危機感がある。町は避難した町民が多い郡山市やいわき市で成人式、近年は旧成人式に当たる「20歳を祝う式典」を町内で続けてきた。ただ、出席者は年々減少し、今年1月の式典に臨んだのは対象者53人のうち9人にとどまった。町は来春の式典を催さない方向で検討しており、若者が町を訪れ、同世代のつながりを生む機会を創出することとした。
最終日は町内に進出した浅野撚糸や、地元企業の伊藤物産を見学する。町民と交流する他、双葉ダルマの絵付けを体験する。ツアーを担当する町教委生涯学習課の木幡勝課長は「町内を直接見てもらえた。アンケートで参加者の意見を募り、次回以降に反映させたい」とさらなる内容の充実を見据えた。
■能登にも届け「双葉花火」
花火大会「双葉花火」が28日、東日本大震災の津波で甚大な被害を受けた双葉町中野地区で初めて催された。震災と東京電力福島第1原発事故からの古里の復興を願い、県内で最大規模となる約1万発が打ち上げられ、秋の夜空を彩った。
被災地の活性化につなげようと、花火師らでつくる福島煙火(えんか)協会が企画した。県内外の花火師が集い、尺玉やスターマインなどを次々と打ち上げた。震災と原発事故を後世に伝えようと福島民報社が企画・制作した絵本「きぼうのとり」を読みながら打ち上げる朗読花火も披露された。石川県能登地方から寄せられた花火玉を使った「エール花火」では、地震と豪雨に見舞われた能登半島の復興を祈った。
観覧エリアの広場には約3千人が来場し、大輪の花を見つめた。町が企画したツアーにより古里を訪れている新成人も観覧した。
協会は継続開催を目指し、双葉地方の新たな観光資源としたい考え。糸井秀一会長(44)=須賀川市、糸井火工=は「今後も被災地に多くの人が訪れるきっかけをつくり、復興に貢献したい」と決意を新たにしていた。