新型コロナ回復者から「有効抗体」発見 福島医大、予防薬開発へ前進
新型コロナウイルス感染症の治療や予防に有効な抗体医薬品の開発事業を進めている福島医大は、感染症回復者の血液から、主に予防薬の開発が期待できる抗体を発見したと発表した。まずは衛生用品関連企業と連携し、この抗体を活用したマスクなどの製品を今夏にも開発する。早ければ二〇二三(令和五)年には、取得に成功した抗体を基に作る医薬品の臨床試験に着手し、その後の実用化につなげる。竹之下誠一理事長兼学長が二十七日、福島市の同大で記者会見した。
福島医大は新型コロナ感染から回復した県内外の約九十人の血液を採取。独自のタンパク質解析技術を通して、この血液から新型コロナウイルスを排除する十八種類の抗体と、その抗体遺伝子を取り出すことに成功した。三種類は予防薬に適した抗体の区分「IgA」で、他の十五種類は注射剤として活用できる抗体の区分「IgG」だった。同大によると、新型コロナ予防に役立つIgAの取得は国内初とみられる。
IgAとIgGの特徴は【表】の通り。IgAは人間の腸管や気道などの粘膜に多く存在しており、新型コロナ予防の効果があるIgAをスプレーなどで投与した場合、目や鼻からのウイルス侵入による感染を防げるという。IgAを使った医薬品が承認されれば世界初となる。
製薬化に先立ち、医薬部外品としてIgAを含んだマスクなどを開発する方針。同大は企業と協議を進め、今夏にも試作品を完成させる見込み。
医薬品はスプレーで鼻孔に直接噴霧したり、トローチとして口の中で溶かしたりする形を想定している。動物実験を経て人間に投与する臨床試験に移り、効果的な投与方法や安全性を検証する。医薬品の実用化には通常十年程度を要するが、医療界と産業界の橋渡し役を担う福島医大医療-産業トランスレーショナルリサーチ(TR)センターの企業連携の実績などを生かし、より短い期間で実現させたい考え。
一方、IgGは血液中で最も多く存在する抗体で、主に注射剤として各国で医薬品開発が進んでいる。今回取得した抗体のうち、衛生用品や医薬品の開発に使用しないIgGなどの抗体は診断薬企業や試薬企業に活用を促す。
同大は、より感染を防ぐ力の強い抗体について特許の取得を計画している。新型コロナの変異株の感染防止に効果があるかどうかも確認を進めている。今回の成果を他の感染症研究にも生かす方針。
竹之下理事長兼学長は記者会見で「想定よりも早く有効な抗体を取得できた。福島医大独自のタンパク質解析技術がいかに優れているかを再認識した」と成果を強調。浜通りに新設予定のTRセンターの研究施設で、企業と連携して研究を進める意向を示した。
また新型コロナに対抗する医薬品開発を国内で推進するため、各地の研究結果を共有できる環境づくりに取り組むよう国に求める考えを明らかにした。
TRセンターの高木基樹教授が同席し、抗体取得の結果や今後の見通しを説明した。
※抗体医薬品 人間の免疫機能の一つである抗体を利用した医薬品。抗体は体内にウイルスや細菌などの異物(抗原)が侵入した際に生成され、異物に結合して排除する働きがあり、この仕組みを生かしている。主にがんや自己免疫疾患向けとして、日本や欧米で70品目を超える抗体医薬品が承認されている。ウイルスの感染を防ぐ能力を持つ「中和抗体」から作るため、投与後に体内に抗体を作るワクチンとは異なる。