少子化を生きる ふくしまの未来 第2部「双葉郡の若者」(2) 婚活事業(下) ゼロからの再出発

 

双葉町後継者結婚対策協議会の会長を務める木幡さん(左)と元会長の福田さん。町の将来のためには婚活支援が重要と考えている

 

2025/02/03 10:54

 

 福島県双葉町は東京電力福島第1原発事故により、途絶えた婚活支援事業を2016(平成28)年度に再始動させた。軌道に乗せる上でハードルとなったのは、「全町避難」という特殊な状況だ。町生涯学習課課長補佐の加村めぐみさん(47)は「手探りの状態。ゼロからのスタートだった」と難しさを振り返る。

 第一に、単身者を集める際の条件が一変した。町と町民有志による「後継者結婚対策協議会」が活動を再開した当時、原発事故が起きる直前の2011年2月末で7100人いた町民は全国に散らばったままだった。

 2020(令和2)年3月に一部地域の避難指示が解除されるまで、町内に自由に立ち入ることもできなかった。しばらくはイベントなどの実施場所はいわき市や近県などから選ぶほかなかった。

 

 対策協議会が強みとしてきた「異性との出会いを求める単身者」の情報や人脈も、原発事故が起きてからの「空白の5年間」のうちに失われた。

 6年ほど前に対策協議会の委員となり、現在は会長を務める木幡昌也さん(39)は「参加してくれる人を集めるのが難しい」と感じている。友人や知人ら、原発事故まで地元で暮らしていた同世代は県内外に避難を強いられた。古里に戻れる見通しが立たない中、避難先で働き口などの生活基盤を既に築いた人も多い。木幡さんが婚活関係の催しへの参加を呼びかけても、「良い返事が返ってくることは少なかった」という。

 社会環境もかつてとは違ってきている。個人情報を保護する意識の高まりから、イベント参加者の「その後」を確認しづらい。結果的に取り組みの成果や改善点を捉えにくくなっている。加村さんは「私たちの取り組みがどこかで実を結んでほしい、という思いでやっている」と切実な心情を明かす。

 

 対策協議会は3月1日に催すバスツアーに向け、募集や準備を進めている。双葉町を出発し、いわき市を経て喜多方市に向かう。そば打ち体験やカフェでの交流を予定している。参加者を増やすために「20~40代の独身者で、町民か町にゆかり・関心のある人」と募集対象を幅広く定め、定員は男女各10人の計20人としている。

 男女合わせて10人ほどの申し込みがあるが、定員が埋まるかは分からない。それでも、対策協議会で長く会長を務めた福田一治さん(53)は「双葉町を『地図に載っているだけ』ではなく、人が暮らす実体を伴う町として将来に残すためには必要だ」と出会いを後押しする意義を強調する。

 現会長の木幡さんは移住者らと「未来双葉会」を組織し、双葉駅前での盆踊りを復活させるなど復興に携わってきた。新年度は14年ぶりに町内で婚活支援事業を催そうと構想を温めている。「地域を守るためには若者や子どもの存在が欠かせない。今の双葉町を知り、ここで家族を持とうと考える人を増やしたい」と地道な取り組みを続ける覚悟を口にした。

 

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