【今を生きる】宝物の13年半避難先の福島県二本松市に別れ 居酒屋経営大清水タミ子さん 古里復興へ双葉町に移転

 

なじみの客と会話を交わし、接客する大清水さん(中央)

 

2025/03/06 11:12

 

 

 その女性は万感の思いを胸に今月末、店ののれんを下ろす。東京電力福島第1原発事故で福島県浪江町から二本松市に避難した大清水タミ子さん(71)。JR二本松駅前で13年半にわたって営んできた居酒屋「こんどこそ」は繁盛店となり、地域になじんだ。常連のあの顔、この顔に後ろ髪を引かれる。でも、決めた。古里・双葉郡をにぎやかにするため来春、双葉町内に店を出すと。別れの春、静かに一言。「ありがとう」―。

 

■常連客「応援」背中押す

 1984(昭和59)年、浪江町に店を構えた。「何事においても前向きに取り組めば、何度でもやり直せる」との思いを店名に込めた。相馬市の市場で仕入れた新鮮な常磐ものを多く使い、真心を込めた料理を提供。連日連夜、常連客らでにぎわった。平穏な暮らしは原発事故で一変。夫と町の仮役場や仮設住宅ができた二本松に移った。何から手をつけるべきかさえ分からない中、「みんなが集まることができる場所があればいい」という周囲の声を受け、避難先での居酒屋再開を決意した。

 初めは訪れる客の9割近くが浪江町民だった。「少しでもいろいろな人たちが集まれる開かれたお店にしたい」。手探りだが、店近くの飲食業組合や商店街の集まりに積極的に顔を出した。少しずつ、地元の客が増えた。農家を営んでいる人が野菜を店に届けてくれることもあった。

 メヒカリの唐揚げやヒラメの刺し身といった常磐ものや「串焼き」「焼きうどん」「牛すじの煮込み」など真心込めた料理が並ぶ。客が杯を交わしながら頬を赤らめて談笑する。13年半の時を経て、すっかり地域の繁盛店に成長した。壁には常連客が持ち寄った「感謝」と記された直筆の掛け軸や夫婦の似顔絵が飾られている。「こんな時間が長く続くといいな」。客の顔を見るたびにそう思った。

 それでも、双葉町への出店にかじを切ったのは、町民への感謝の思いからだ。浪江町の中心街で開業し、双葉町からの客も多く支えてくれた。「古里に恩返しがしたい」と考えた。ただ、自分たちを受け入れ、応援し続けてくれた二本松市民を裏切ってしまうとの思いも拭えない。常連客の「寂しいけど最後じゃない。きっと新しい場所にも通って応援するよ」の声が背中を押す。

 長男一輝さん(37)が店主となり、浪江町の店は2018(平成30)年9月に再開している。「これまで出会った人々との時間はかけがえのない『宝物』。恩を忘れず新たな店も、誰もが来たいと思える店にして双葉郡を盛り上げたい」と思い描く。

 

■JR双葉駅東側の商業施設内に開店

 双葉町の店は、町がJR双葉駅東側の町立体育館跡地に整備している商業施設内に開く。20人ほどで宴会ができる座敷を設け、テイクアウトも用意する。飲食店計3店舗が入る。

 

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