柳美里さん(福島県南相馬市小高区在住) 米で演劇制作 シカゴ大から依頼 8日出発 移民の思いなど描く

 

渡米を前に演劇制作への思いを語った柳さん

 

2025/12/04 11:45

 

 米シカゴ大から演劇の制作依頼を受けていた福島県南相馬市小高区在住の芥川賞作家・柳[ゆう]美里[みり]さん(57)は8日に渡米し、取材や執筆に入る。日系アメリカ人が移民として暮らした背景や思いなどを聞き取り、戯曲にする。来年秋の完成、2027(令和9)年に県内と米国での上演を目指している。出演者の一部は演劇に励む県民から募る。

 

 2018(平成30)年に柳さんがシカゴ大で講演した際、日本文学などを研究するマイケル・ボーダッシュ教授から演劇制作を依頼された。2020(令和2)年開始予定だったが、コロナ禍で延期されていた。

 取材対象はシカゴ大の教授やシカゴ日本人会の紹介を受け、半年で数十人に話を聞く。第2次大戦中の強制収容を経験した日系人の2世や、1950(昭和25)~1960年に米国文化に憧れて移住した「新1世」といわれる世代など、さまざまな立場の人のエピソードから物語の内容を固める。

 題名は「Obon(お盆)」。共同体がばらばらになっても、毎年のお盆だけは大切にしていた日系人の姿から名付けた。福島県や米国を舞台に、時代によって盆踊りが変容する様子を2~3部構成で描く構想がある。来年秋の戯曲完成後、音響や照明がない状態で俳優に演じてもらい、現地の演劇関係者や日系人らにお披露目する。

   ◇    ◇ 

 柳さんは文芸誌「文芸」で小説「JR常磐線夜ノ森駅」を連載している。来年4月発売の夏季号で完結し、書籍化される予定。

 

■県民から出演募る 「夢描く方法示したい」

 今作は、柳美里さんが南相馬市で生まれ育った人々の話を基に書いた戯曲「町の形見」(2018年上演)と同じ流れで制作する。東京電力福島第1原発事故の避難者、日系移民ともに、これまで過ごした土地、新たな土地とどうつながっていくかを考えてきた立場だ。柳さんに今作への思いを聞いた。

 ―題材を決めた経緯は。

 「私もある意味、移民。朝鮮戦争の時に祖父母と母が日本に逃れた。国籍は韓国だが、日本で生まれ、日本語で考え、書く。寄る辺のない、はざまに生きる存在として接点を見いだし、その立場になって考えることに意味があると思った」

 ―作家活動40周年、震災発生から15年の節目を迎える来年、自身の活動やルーツに関わりの深い作品を手がけることになる。

 「福島は、移住先で新たな縁を結ばなければならない中で生きる悲しみ、苦しみに直面している人が多い。その声を届けると共に、それでも生きることに意味はあると伝えたい。さらに、県民に出演してもらうことで、芸術に励むために都心へ出てしまう若者に福島で夢を描く方法を示したい」

 ―海外に住んだ経験は。

 「初めて。年齢を重ねると守りに入る人も多いと思うが、私は無謀なことをしたい。関東から南相馬に移住して日本の見方が変わったように、米国から見る日本も違うだろう。私自身が変わっていくのが楽しみ」

 

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